表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
364/398

ロア




翌朝。


港を出た四人は、


静かな道を歩いていた。


ベス。


ノア。


アイラ。


灰猫。


朝の風が、


草原を優しく揺らしている。


やがて。


見慣れた村が見えてきた。


誰もいない村。


壊れた家々。


草に覆われた道。


静かな時間だけが流れている。


ノアは歩みを止めなかった。


まっすぐ。


村の奥へ向かう。


小さな墓が並ぶ場所。


二つの墓石の前で、


ノアは静かに膝をついた。


両手を合わせる。


しばらく言葉はない。


風だけが、


静かに吹いていた。


やがて。


ノアが小さく笑う。


「お父さん。」


「お母さん。」


「帰ってきたよ。」


その声は、


昔より少しだけ大人びていた。


「いっぱい旅をしたよ。」


「たくさん笑って。」


「たくさん助けてもらった。」


ベスを見る。


アイラを見る。


灰猫は静かに目を細めている。


ノアはもう一度、


墓石へ向き直った。


「だから。」


「今度は。」


「世界を見てくるね。」


「ちゃんと帰ってくるから。」


風が吹く。


花が揺れる。


それだけで、


十分だった。


ノアは立ち上がる。


「行こう。」


ベスが頷く。


「ああ。」


四人は村を後にした。


その時だった。


ふわり。


一陣の風が村を吹き抜ける。


ギシ……


小さな音が響いた。


ノアが振り返る。


自分の家だった。


長い年月を耐えてきた家が、


静かに崩れ始める。


柱が折れ。


屋根が落ち。


土煙がゆっくり舞い上がる。


誰も動かない。


風が土煙をさらう。


その中で。


瓦礫の中央に、


一つだけ残っているものがあった。


頑丈な木箱。


ノアはゆっくり近付く。


そっと蓋を開いた。


中には、


白い巫女服が丁寧に畳まれていた。


白を基調に、


青い布が重なり、


金糸の刺繍が静かに光を受ける。


旅へ出る前のノアには、


少しだけ大きな服。


まるで。


「いつか着る日」のために、


残されていたようだった。


ノアは大切そうに抱きしめる。


灰猫が静かに頷く。


「……それは、お主のものじゃ。」


ノアも小さく頷いた。


「うん。」


箱を閉じる。


巫女服を抱え、


村を後にする。


歩き出したその時。


風が、


ノアの頭を優しく撫でた。


続いて。


背中を、


そっと押す。


ノアは少しだけ目を閉じる。


そして、


微笑んだ。


「……行ってきます。」


もう振り返らない。


四人は船の待つ海へ向かい、


静かに歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ