ロア
翌朝。
港を出た四人は、
静かな道を歩いていた。
ベス。
ノア。
アイラ。
灰猫。
朝の風が、
草原を優しく揺らしている。
やがて。
見慣れた村が見えてきた。
誰もいない村。
壊れた家々。
草に覆われた道。
静かな時間だけが流れている。
ノアは歩みを止めなかった。
まっすぐ。
村の奥へ向かう。
小さな墓が並ぶ場所。
二つの墓石の前で、
ノアは静かに膝をついた。
両手を合わせる。
しばらく言葉はない。
風だけが、
静かに吹いていた。
やがて。
ノアが小さく笑う。
「お父さん。」
「お母さん。」
「帰ってきたよ。」
その声は、
昔より少しだけ大人びていた。
「いっぱい旅をしたよ。」
「たくさん笑って。」
「たくさん助けてもらった。」
ベスを見る。
アイラを見る。
灰猫は静かに目を細めている。
ノアはもう一度、
墓石へ向き直った。
「だから。」
「今度は。」
「世界を見てくるね。」
「ちゃんと帰ってくるから。」
風が吹く。
花が揺れる。
それだけで、
十分だった。
ノアは立ち上がる。
「行こう。」
ベスが頷く。
「ああ。」
四人は村を後にした。
その時だった。
ふわり。
一陣の風が村を吹き抜ける。
ギシ……
小さな音が響いた。
ノアが振り返る。
自分の家だった。
長い年月を耐えてきた家が、
静かに崩れ始める。
柱が折れ。
屋根が落ち。
土煙がゆっくり舞い上がる。
誰も動かない。
風が土煙をさらう。
その中で。
瓦礫の中央に、
一つだけ残っているものがあった。
頑丈な木箱。
ノアはゆっくり近付く。
そっと蓋を開いた。
中には、
白い巫女服が丁寧に畳まれていた。
白を基調に、
青い布が重なり、
金糸の刺繍が静かに光を受ける。
旅へ出る前のノアには、
少しだけ大きな服。
まるで。
「いつか着る日」のために、
残されていたようだった。
ノアは大切そうに抱きしめる。
灰猫が静かに頷く。
「……それは、お主のものじゃ。」
ノアも小さく頷いた。
「うん。」
箱を閉じる。
巫女服を抱え、
村を後にする。
歩き出したその時。
風が、
ノアの頭を優しく撫でた。
続いて。
背中を、
そっと押す。
ノアは少しだけ目を閉じる。
そして、
微笑んだ。
「……行ってきます。」
もう振り返らない。
四人は船の待つ海へ向かい、
静かに歩き始めた。




