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バル  作者: 隣の猫
PR
361/398

オブ



扉の先。


そこは、


長い間誰にも触れられていない空間だった。


壁は石ではない。


大樹の内側。


巨大な幹そのものが、


一つの部屋を作っていた。


中央には、


円形の台座。


そして。


その奥の壁。


そこに。


巨大なものが刻まれていた。


ベスは足を止める。


「……これは。」


ノアも、


ただ静かに見上げていた。


壁一面。


そこに描かれていたのは、


大きな地図だった。


だが。


ベスには、


すぐには理解できない。


知っている地図とは違う。


大陸の形。


海の流れ。


今まで見てきたものとは、


どこか違っていた。


「……。」


ノアが一歩近付く。


その瞬間。


淡い光が動いた。


壁の地図の上を、


ゆっくりと流れる。


そして。


三つの場所へ落ちる。


北。


西。


東。


それぞれの大陸。


光はそこから動かない。


まるで、


何かを示しているようだった。


ベスは目を細める。


「……三つ。」


ノアが頷く。


「うん。」


「ここじゃない。」


ベスは中央を見る。


地図の中心。


そこだけが、


何も描かれていなかった。


空白。


まるで、


最初から存在しなかったように。


「……。」


胸の奥に、


小さな違和感が残る。


だが。


今のベスには、


その意味までは分からなかった。


ノアは光を見る。


「行かないと。」


「どこへ?」


ノアは三つの光を見る。


「分からない。」


「でも。」


「ここが教えてる。」


ベスはしばらく黙る。


そして。


壁へ手を伸ばす。


触れても、


何も起きない。


ただ。


残った光だけが、


静かに揺れていた。


――。


朝。


灰鷹は再び集まった。


「ベス。」


レオンが眠そうな顔で近付く。


「どうしたんだよ、こんな朝早く。」


ベスは答えず、


ノアと共に全員を連れていく。


大樹の奥。


隠された部屋。


そこにあるものを、


仲間たちへ見せるために。


やがて。


全員が地図の前に立った。


「……。」


沈黙。


最初に口を開いたのは、


レオンだった。


「……何かあるか?」


ベスを見る。


ノアを見る。


そして。


首を傾げた。


「いや。」


「何も見えないんだけど。」


ベスは振り返る。


「見えない?」


「え?」


レオンが困った顔をする。


「いや、壁はあるけど。」


「光とか、そういうのは……。」


アイラも地図へ近付く。


リシアも見る。


ガルドも静かに目を向ける。


だが。


誰も反応しない。


ベスとノアだけが、


見えていた。


「……。」


レオンが二人を見る。


「お前ら。」


「寝ぼけてるんじゃないだろうな?」


その瞬間。


ガルドがレオンの頭を軽く小突いた。


「痛っ。」


「余計なことを言うな。」


リシアが少し考える。


「でも。」


「ベスとノアにしか見えていない可能性はあるかも。」


アイラは壁の地図を見つめ続けていた。


「……。」


「この地図。」


「かなり古いわね。」


指先で、


刻まれた線をなぞる。


「今の地形とは違う。」


「でも。」


「完全に別物でもない。」


アイラの目が細まる。


「どの時代のものかは分からないけど……。」


「少なくとも。」


「今よりずっと前のもの。」


大樹の奥。


古い地図。


見えない光。


そして。


三つの場所。


灰鷹は、


次に進む道を見つけた。

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