オブ
扉の先。
そこは、
長い間誰にも触れられていない空間だった。
壁は石ではない。
大樹の内側。
巨大な幹そのものが、
一つの部屋を作っていた。
中央には、
円形の台座。
そして。
その奥の壁。
そこに。
巨大なものが刻まれていた。
ベスは足を止める。
「……これは。」
ノアも、
ただ静かに見上げていた。
壁一面。
そこに描かれていたのは、
大きな地図だった。
だが。
ベスには、
すぐには理解できない。
知っている地図とは違う。
大陸の形。
海の流れ。
今まで見てきたものとは、
どこか違っていた。
「……。」
ノアが一歩近付く。
その瞬間。
淡い光が動いた。
壁の地図の上を、
ゆっくりと流れる。
そして。
三つの場所へ落ちる。
北。
西。
東。
それぞれの大陸。
光はそこから動かない。
まるで、
何かを示しているようだった。
ベスは目を細める。
「……三つ。」
ノアが頷く。
「うん。」
「ここじゃない。」
ベスは中央を見る。
地図の中心。
そこだけが、
何も描かれていなかった。
空白。
まるで、
最初から存在しなかったように。
「……。」
胸の奥に、
小さな違和感が残る。
だが。
今のベスには、
その意味までは分からなかった。
ノアは光を見る。
「行かないと。」
「どこへ?」
ノアは三つの光を見る。
「分からない。」
「でも。」
「ここが教えてる。」
ベスはしばらく黙る。
そして。
壁へ手を伸ばす。
触れても、
何も起きない。
ただ。
残った光だけが、
静かに揺れていた。
――。
朝。
灰鷹は再び集まった。
「ベス。」
レオンが眠そうな顔で近付く。
「どうしたんだよ、こんな朝早く。」
ベスは答えず、
ノアと共に全員を連れていく。
大樹の奥。
隠された部屋。
そこにあるものを、
仲間たちへ見せるために。
やがて。
全員が地図の前に立った。
「……。」
沈黙。
最初に口を開いたのは、
レオンだった。
「……何かあるか?」
ベスを見る。
ノアを見る。
そして。
首を傾げた。
「いや。」
「何も見えないんだけど。」
ベスは振り返る。
「見えない?」
「え?」
レオンが困った顔をする。
「いや、壁はあるけど。」
「光とか、そういうのは……。」
アイラも地図へ近付く。
リシアも見る。
ガルドも静かに目を向ける。
だが。
誰も反応しない。
ベスとノアだけが、
見えていた。
「……。」
レオンが二人を見る。
「お前ら。」
「寝ぼけてるんじゃないだろうな?」
その瞬間。
ガルドがレオンの頭を軽く小突いた。
「痛っ。」
「余計なことを言うな。」
リシアが少し考える。
「でも。」
「ベスとノアにしか見えていない可能性はあるかも。」
アイラは壁の地図を見つめ続けていた。
「……。」
「この地図。」
「かなり古いわね。」
指先で、
刻まれた線をなぞる。
「今の地形とは違う。」
「でも。」
「完全に別物でもない。」
アイラの目が細まる。
「どの時代のものかは分からないけど……。」
「少なくとも。」
「今よりずっと前のもの。」
大樹の奥。
古い地図。
見えない光。
そして。
三つの場所。
灰鷹は、
次に進む道を見つけた。




