サバス
大樹の神殿は、
静かなままだった。
灰鷹は慎重に内部を確認していく。
崩れた柱はない。
床にも大きな亀裂はない。
黒い霧の痕跡も、
ほとんど残ってはいなかった。
「問題なさそうだな。」
ガルドが小さく呟く。
団員たちも頷く。
「今日はここで休む。」
その一言で、
灰鷹は野営の準備を始めた。
薪を集める者。
食事を作る者。
武器を手入れする者。
張り詰めていた空気が、
少しずついつもの灰鷹へ戻っていく。
やがて、
焚き火が灯った。
橙色の炎が、
神殿の壁を静かに照らしている。
ベスは火を見つめながら腰を下ろした。
戦いは終わった。
身体には疲労が残っている。
それでも、
仲間たちの声を聞くと、
自然と肩の力が抜けていった。
「いやぁ……。」
レオンが大きく伸びをする。
「さすがに疲れた。」
「疲れたじゃない!」
間髪入れず、
アイラの声が飛んだ。
「なんで黙ってたの!」
「え?」
「あの風よ!」
「使えるなら最初から言いなさいよ!」
レオンは目をぱちぱちさせる。
「いや、俺もあそこで初めてちゃんと――」
「言い訳!」
「はい。」
返事だけは早い。
その様子に、
周囲の団員たちが笑う。
「始まったな。」
「また怒られてる。」
「いつものレオンだ。」
リシアも焚き火の向こうから口を開く。
「私も同じ。」
「え、リシアまで?」
「助けてくれたのは嬉しかった。」
「でも。」
「無茶しすぎ。」
レオンは苦笑いを浮かべる。
「……はい。」
「次からは相談。」
「分かった。」
その時だった。
「レオン。」
小さな声が響く。
ノアだった。
レオンが振り向く。
ノアは少しだけ眉を下げている。
「もう。」
「痛いのは、やだ。」
一瞬だけ、
焚き火の周りが静かになる。
レオンは頭をかいた。
「……悪かった。」
ノアは小さく頷く。
「約束。」
「約束。」
そのやり取りを見て、
団員たちが吹き出した。
「ははっ!」
「ノアに言われたら終わりだな。」
「今のが一番効いてる。」
レオンは肩をすくめる。
「敵より痛ぇなぁ……。」
笑い声が広がる。
ガルドはその様子を横目で見ながら、
焚き火へ薪を一本くべた。
炎が大きく揺れる。
誰も欠けていない。
それだけで、
十分だった。
夜は静かに、
更けていった。




