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バル  作者: 隣の猫
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355/398

トロワ



風が吹く。


舞い上がった葉が、


二人の間を流れていく。


その隙間に、


黒い霧が“遅れて”滲んだ。


まるで空気そのものが、


一拍遅れて汚れていくように。


幹部が動く。


木を蹴る。


枝を掴む。


その瞬間、


黒い霧が“形を持つ前に”引き伸ばされた。


糸のように。


膜のように。


だが次の瞬間には、


それはもう“霧”ではなかった。


影だ。


地面の影と繋がり、


木の影へ滑り込み、


幹部の動きそのものを引きずるように伸びていく。


身体が宙を舞う。


その軌道の後ろに、


黒い尾が残る。


だがそれは尾ではない。


遅れて追従する“残像”だ。


拳が一直線に迫る。


ベスは動かない。


視線だけが追う。


来る。


そう思った瞬間。


黒い霧が“割れた”。


割れたのではない。


避けたのでもない。


空間の中で、


一瞬だけ“そこに存在しなかった”。


拳は木へ伸びる。


支点を作る。


その動きの途中で、


黒い霧が“逆流”する。


軌道が変わる。


その変化すら、


もう読んでいた。


ベスが踏み込む。


剣が閃く。


ズァッ!!


刃が空を裂く瞬間、


黒い霧が“刃の形を避けるように”薄く裂けた。


幹部は木から手を離す。


だが離れ方が異常だった。


落ちるのではない。


“滑り落ちる”。


重力に従っていない。


身体を捻る。


その動きに合わせて、


黒い霧がねじれる。


まるで霧の方が、


身体の動きを“先に知っていた”かのように。


刃は空を切る。


だが。


もう一歩。


ベスは止まらない。


左腕。


フェンリル。


銀色の前脚が地面を叩く。


轟音。


その衝撃で、


黒い霧が一瞬だけ“散る”。


散ったのではない。


形を保てず、


一瞬だけ“ただの闇”に戻る。


幹部は枝へ跳ぶ。


その瞬間。


黒い霧が枝に“先回り”していた。


だがベスの剣が、


その“先にある霧ごと”枝を断ち切る。


乾いた音。


枝が折れる瞬間、


黒い霧が悲鳴のように揺れた。


音ではない。


空気の歪みだ。


初めて。


空中で身体が泳いだ。


その泳ぎの軌道すら、


黒い霧が一瞬遅れて追いかける。


一瞬。


それだけ。


十分だった。


ベスが距離を詰める。


剣を振るう。


ガギィィン!!


黒い小手が受け止める。


その瞬間、


霧が“防御の形”を作るより先に、


衝撃が内部へ沈んだ。


互いの足元が沈む。


黒い霧が渦を巻く。


だがその渦は、


中心がない。


回っているのではない。


“回らされている”。


銀色の前脚が押し込む。


幹部は踏み止まる。


だが。


後ろへ。


半歩。


その半歩の瞬間、


黒い霧が一瞬だけ“遅れた”。


ベスの目が細まる。


初めて押した。


幹部も、


静かにベスを見る。


黒い霧が揺れる。


腕を包む闇が、


ほんの僅かに“形を失う”。


霧ではない。


影でもない。


何かが、


一瞬だけ“剥がれかけた”。


誰も気付かない。


本人さえも。


ただ。


黒い霧は、


確かに削られ始めていた。


幹部はゆっくりと拳を下ろす。


その動きに合わせて、


霧が“元の形を思い出すように”戻っていく。


そして。


木々の間へ、


再び駆け出す。


まだ終わらない。


森の中で、


黒い影は“遅れて”走り、



















銀の刃は“先に”追っていた。

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