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バル  作者: 隣の猫
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348/430

アグリ



黒い霧が、


風に流れていく。


大槌の使徒が膝をつく。


その前に立つレオンは、


ゆっくり息を吐いた。


左手には、


小剣。


まだ風が残っている。


だが。


レオンが最初に見たのは、


敵ではなかった。


「……リシア」


振り返る。


少し驚いた顔でレオンを見ていた。


「大丈夫か?」


リシアは一瞬だけ目を丸くする。


「……うん」


小さく頷く。


「ありがとう」


レオンは軽く笑った。


「間に合ってよかった」


それだけ言って、


小剣へ視線を落とす。


あの距離。


普通なら届かなかった。


けれど。


柄に触れた瞬間、風が応えた。






『その小剣は“爪”だ』


オアシスでの父鷹の声。


『神殿で拾ったそれは、我らの爪を模した武器だ』


レオンは思い出す。


黄金の翼。


空を裂く鳥の姿。


その先にある鋭い爪。


『柄には風の魔力を込めてある』


『持ち主の意思に反応し、距離を一瞬で奪う風を起こす』


レオンは当時、鼻で笑った。


「便利すぎだろ、それ」


父鷹は静かに首を振る。


『だがな』


『爪は速さのためだけにあるんじゃない』


『獲物を“掴む瞬間”を逃さないためのものだ』




今なら分かる。


風は勝手に勝利をくれる力じゃない。


届かない距離を“繋ぐ”だけだ。


最後に掴むのは、自分の判断。


レオンは小剣を握り直す。


地下神殿で初めて使った時は失敗した。


それでも、あの一瞬で掴んだものがある。


大剣で押し込む。


相手の力を見る。


流れを読む。


そして、一瞬を奪う。


今回も同じだ。


変わったのはただ一つ。


その一瞬へ、風が届くこと。


「……悪くないな」


レオンは小剣を見た。


「親父の爪ってわけか」


リシアが小さく笑う。


「似合ってる」


「そうか?」


「うん」


レオンは少しだけ照れたように頭をかく。


その時。


遠くで黒い霧が揺れた。


戦いは終わっていない。


レオンは大剣を握り直す。


小剣だけではない。


大剣だけでもない。


今の自分にあるすべてで戦う。


「行くぞ」


風が吹く。


黄金の翼から受け継いだ“爪”が、
























静かに鳴った。

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