ストライク
剣がぶつかる。
レオンの大剣が、虚無の使徒の黒い刃を真正面から受け止めた。
金属音ではない。
空気ごと潰すような重圧が、腕から全身へ流れ込む。
「……っ」
レオンの足が一瞬だけ沈む。
だが、後ろへは下がらない。
左足を半歩引き、右足で地面を踏み直す。
衝撃を“受け流す角度”に変える。
黒い霧が刃の周囲で弾ける。
虚無の使徒はそのまま押し込む。
「まだ立つか」
低い声。
レオンは歯を食いしばりながらも、剣を押し返さない。
「立つのが仕事みたいなもんでな」
力で勝とうとしていない。
“崩れない位置”だけを維持している。
その瞬間だった。
戦場の空気が変わる。
アイラの視線が跳ねる。
「……来る!」
彼女の弓が上を向く。
同時に、黒い影が戦場の中央から滑るように動いた。
投げナイフの使徒。
腕が一度だけ振られる。
放たれた黒い刃は一直線ではない。
複数の軌道に分かれ、戦場全体へ散る。
狙いは一点ではない。
リシア、アイラ、そして周囲の灰鷹の団員。
“誰か一人でも反応を遅らせればいい”。
それだけで戦況は崩れる。
リシアが即座に反応する。
「銀氷華!」
足元から氷が広がる。
空中に舞い上がった氷片が、飛来するナイフの軌道へ割り込む。
キンッ、と乾いた音。
一本目は逸れる。
二本目も氷に弾かれる。
だが、処理しきれない。
氷を展開した直後で、次の術式へ繋げる余裕がない。
その“隙”を見逃さない影があった。
地面が沈む。
重い足音。
大槌の使徒。
リシアの死角へ、真正面から踏み込んでくる。
狙いは明確。
氷を使い切った“今のリシア”。
大槌が振り上げられる。
空気が歪む。
「……っ」
リシアは振り返るが、遅い。
氷の制御から切り替える一瞬が間に合わない。
大槌が落ちる。
その瞬間。
レオンの視界にそれが入った。
距離は遠い。
剣の使徒との押し合いの最中。
普通なら間に合わない。
だが。
レオンは“判断”ではなく“動作”で切り替えた。
虚無の使徒の刃を横へ流す。
受けるのではなく、角度をずらして逸らす。
そのまま一歩、強引に踏み込む。
砂が跳ねる。
剣の使徒との間合いを一瞬だけ切り離す。
そして。
小剣の柄に触れる。
一瞬で、大槌の前へ。
レオンが割り込む。
大剣を横に構える。
次の瞬間。
轟音。
大槌と大剣が正面から衝突する。
衝撃で地面が陥没する。
レオンの腕が軋む。
「……っ」
だが、押し返さない。
真正面で“受け止める”のではなく、力の方向を固定する。
大槌の力を地面へ逃がさせない。
“止める”ことだけに集中する。
大槌の使徒はさらに力を込める。
押し潰すように前へ。
その瞬間。
レオンの足がわずかに沈む。
だが、口元だけが僅かに歪んだ。
「……そこだ」
力を“抜く”。
完全に受け止めていた圧が、一瞬だけ消える。
支えを失った大槌の使徒の身体が、前へ流れる。
体勢が崩れる。
その“前のめり”の瞬間。
レオンの左手が動いた。
腰の小剣。
逆手で抜く。
風が一気に巻き上がる。
ただの風ではない。
暴風。
刃ではなく、圧そのものが形を持つ。
横から走る一閃。
鷹の爪。
黒い霧が裂けた。




