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バル  作者: 隣の猫
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ホークス



剣が交差する。


金属がぶつかる乾いた衝撃音が、空気そのものを震わせた。

一撃ごとに、胸の奥まで圧が押し込まれる。


重い。


それだけではない。


黒い霧を纏った刃が振るわれるたび、空気が“潰れる”。

視界の端が歪み、呼吸が一瞬だけ遅れる。


レオンは受けない。


受けた瞬間、骨ごと持っていかれる。


だから。


流す。


刃が触れる直前、踏み込みを半歩だけずらす。

肩を引く。

空気を裂く音が耳元を掠め、黒い刃が頬のすぐ横を通過する。


紙一重。


そのたびに、空気が遅れて爆ぜるように揺れた。


レオンの剣が相手の腕に触れる。


キィン、と鈍い金属音。

だが浅い。


黒い霧の外套が衝撃を吸い、刃は肉に届かない。


それでも。


確実に削る。


「逃げているだけか」


虚無の使徒の声は低く、霧の奥で響いた。

その声すら、圧の中で歪んで聞こえる。


レオンは口の端を上げる。


「そう見えるなら助かるな」


次の瞬間。


踏み込む。


地面が鳴る。

砂が跳ね、足元から空気が押し出される。


真正面ではない。


相手の剣が“振り切られる直前”。

最も重さが乗り切らない瞬間だけを狙う。


刃がぶつかる。


ガァン、と鈍い衝突音。

腕に痺れが走る。


だが。


レオンは止まらない。


押す。


引く。


一瞬だけ力を抜き、相手の重さを“受け流す側”へと変える。

黒い霧の圧が、逆に流れの隙間を生む。


それを拾う。


剣が弾かれる。


金属音が短く鳴り、空気が裂ける。


それでもレオンは踏み込む。


視界の端。


投げナイフの使徒が、わずかに指を動かした。


中央。


戦場全体を見下ろす位置。


黒い刃が、いつでも放たれる距離。


リシアの銀氷華。

アイラの風。


どちらもまだ崩れていない。


だが。


あの“間”がある限り。


一瞬の遅れが死になる。


レオンは視線を戻す。


今は。


目の前だけを見る。


黒い霧が揺れる。


剣が迫る。


空気が押し潰される音が、耳の奥で鳴った。


レオンは受け流す。


足元の砂が一気に舞い上がる。

視界が白く濁る。


一歩。


また一歩。


押されている。


それでも。


崩れない。


「……面倒な相手だ…」


虚無の使徒が呟く。


レオンは剣を構え直す。


「お互い様だろ」


風が抜ける。


大樹の前。


黒い霧と金属音の中で。






















灰鷹の翼は、まだ折れていなかった。

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