ファイト
剣と剣がぶつかる。
甲高い音が、大樹の神殿前へ響いた。
レオンは一歩退く。
追うように。
虚無の使徒が踏み込む。
速い。
それ以上に。
重い。
黒い霧を纏った剣が振り下ろされる。
受ける。
衝撃が腕を駆け抜けた。
「っ……!」
力負けする。
分かっていた。
やはり地下神殿とは違う。
あの時は、黒い霧を使わせなかった。
だから、人の力で渡り合えた。
今は違う。
最初から黒い霧を纏っている。
人では届かない膂力。
それでも。
レオンは真正面から押し返さない。
力を抜く。
刃が滑る。
踏み込みを外す。
紙一重で身体を捻り、剣先だけを掠らせる。
黒い霧が頬を裂いた。
熱い。
だが浅い。
「避けるか」
虚無の使徒が低く呟く。
その声には、ただの戦闘ではない“確信”が混じっていた。
最初から、この剣の使徒は単独で勝つつもりではない。
レオンはそれを理解する。
剣の使徒は“正面を壊す役”だ。
力で押し潰し、相手の防御と判断を削る。
そして。
その隙間を狙うのが――
視界の端。
投げナイフの使徒。
黒い霧の中で、まるで空気のように存在感を消している。
だが消えているのではない。
“見られていない瞬間”を選んでいる。
指先で黒い刃を回す。
投げる構えではない。
まだだ。
今は“待っている”。
レオンが剣の使徒に意識を割いた瞬間。
リシアかアイラのどちらかが一瞬でも崩れた瞬間。
そこにだけ、刃を差し込むために。
戦場全体を見ているのは、あの剣の使徒ではない。
投げナイフの方だ。
あれは“戦いを終わらせる刃”ではない。
“戦いの形を壊す刃”だ。
一撃で倒すのではなく、
一瞬の判断を狂わせるためだけに存在している。
レオンは奥歯を噛む。
厄介なのは、あの二人が連携していることだ。
剣の使徒が前で圧をかける。
投げナイフが後ろで“選択肢”を奪う。
前に出れば剣。
止まれば投擲。
守れば崩し。
どの選択にも、必ず死角が生まれる構造。
「……嫌な組み方してるな」
小さく吐き捨てる。
再び剣が振り下ろされる。
受ける。
押される。
踏みとどまる。
だが、その一瞬の“止まり”すら、投げナイフの使徒は見逃さない。
指がわずかに動く。
まだ投げていない。
それでも分かる。
“今なら届く”という距離を測っている。
レオンの背後。
リシア。
そのさらに外側。
アイラ。
どちらかが一瞬でも崩れれば、
そこへ黒い刃が滑り込む。
戦場全体が、すでに“狙われている”。
レオンは息を吐く。
焦るな。
今はまだ、剣を止める。
それだけでいい。
再び剣がぶつかる。
黒い霧が弾ける。
戦場の中央。
レオンは一歩も退かなかった。




