表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
344/398

トゥ




黒い霧が揺れる。


その中から。


短剣の虚無の使徒が消えた。


速い。


人の目で追える速度ではない。


次の瞬間。


背後。


刃が迫る。


しかし。


アイラは動かなかった。


弦へ指を掛ける。


僅かな音。


弓が鳴る。


その瞬間。


風が変わった。


周囲から吹いていた風。


木々の間を抜けていた風。


大地を撫でていた風。


全てが集まる。


一方向ではない。


あらゆる角度。


死角から。


無数の風の矢が生まれる。


短剣の使徒が姿を現す。


黒い霧が揺らぐ。


その身体を覆っていた霧が、


風によって裂かれていく。


「……。」


初めて。


相手の動きが止まった。


隠れる場所がない。


黒い霧で姿を隠しても。


風が教えてくれる。


アイラは静かに弓を引く。


見えている。


敵だけではない。


戦場全体が。


風の流れが。


すべて。


だが、その“見えている”という感覚の奥で、胸の奥に一瞬だけ影が差す。


――届かなかった。


あの時。


盟主の前で。


矢は確かに放たれた。


けれど、届かなかった。


あれは敗北ではなかった。


“届く世界に立てていなかった”だけだ。


悔しさは、今も消えていない。


だがそれは、もう足を止める鎖ではない。


むしろ。


ここまで歩いてきた証だ。


仲間と共に積み重ねた時間が、


風の“見え方”を変えた。


失敗も。


悔しさも。


全部、ここへ繋がっている。


アイラはゆっくりと息を吐く。


影はもう見ていない。


大樹の向こう。


まだ届かない場所。


そこにいる存在。


盟主。


「……もう、影じゃない」


声は小さい。


だが、確かに戦場に落ちる。


弦が軋む。


風が収束する。


世界が一瞬だけ静止する。


そして。


「――今度は、届く」


放たれる。


一矢。


それは風ではない。


“意志そのもの”だった。


黒い霧を裂き、


短剣の使徒の間合いすら無視して、


一直線に貫く。


空間が震える。


風が遅れて追従する。


「次は、あなた自身を射抜く」


短剣の使徒が踏み込む。


しかし。


もう遅い。


風は。


過去ではなく。

























“今のアイラ”に従っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ