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バル  作者: 隣の猫
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アップ



黒い刃が飛ぶ。


狙いはリシア。


大槌の虚無の使徒と向き合うその背へ、

戦場の“隙間”を縫うように投げ込まれた一撃。


――殺意は、一直線ではない。

戦場そのものを歪めるための軌道だった。


だが。


届く前に。


氷の粒が舞った。


それは防御ではなかった。


ただの反射でもない。


リシアの呼吸に合わせて、

“そこに在るべきもの”のように、自然に生まれた揺らぎ。


小さな輝きが、黒い刃に触れる。


金属音。


投げナイフは弾かれ、地面へ落ちた。


リシアは視線だけを動かす。


中央。


そこに立つ、投げナイフの虚無の使徒。


一対一ではない。


この戦場そのものを見ている存在。


「……」


小さく息を吐く。


だが、焦りはない。


恐怖でもない。


ただ、理解だけがあった。


――これは“戦い”ではなく、“侵食”だ。


再び前を見る。


目の前。


大槌を構えた虚無の使徒。


黒い霧が揺れる。


次の瞬間。


大地を踏み砕くような一撃が迫る。


リシアは細剣を滑らせた。


受け止めない。


流す。


力の向きを変える。


正面から受ければ、勝負にならない。


だから。


技で戦う。


だがその瞬間、リシアは気づく。


――この力は、ただの“技術”ではない。


流したはずの衝撃が、

どこかで“消えている”。


いや、消えてはいない。


氷の粒が、受け取っている。


砕けるのではなく、

散るのでもなく。


“意味を変えている”。


大槌の軌道が逸れる。


その隙を使い、リシアは距離を取る。


細剣を構え直す。


黒い霧。


人の限界を越えた力。


それでも。


地下神殿で戦った時とは違う。


あの時は、ただ必死だった。


守るために、掴むために、振るうだけだった。


けれど今は違う。


氷の粒が舞う。


冷たいはずの光。


なのに、胸の奥だけが静かに熱い。


思い出すのではない。


“繋がっている”という感覚。


言葉ではない。


記憶でもない。


ただ、ずっと隣にいた気配。


傷ついた時も。


迷った時も。


何も言わず、消えず、離れず。


そこに在り続けたもの。


リシアは氷を見る。


これは力ではない。


守るための術でもない。


――“一緒にいる”という形だ。


だから。


名前を与える。


「銀氷華」


その瞬間。


氷の粒が変わった。


ただ舞っていたものが、

“意味を持って咲くもの”へと変わる。


散っていた光が、

一つの輪郭を持ち始める。


銀色の花弁。


静かな輝き。


それは攻撃でも防御でもない。


“存在そのものの証明”。


空中に咲く。


大槌の虚無の使徒が踏み込む。


投げナイフが再び放たれる。


しかし。


銀氷華が揺れる。


氷の粒が、刃の“意図”を読み取るように軌道を変える。


黒い刃は、リシアへ届かない。


守るのではない。


拒むのでもない。


ただ、そこに“通さない世界”がある。


共に戦うための力。


共に在るための形。






















銀色の華が、戦場に咲いていた。

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