ウッズ
大樹の神殿前。
灰鷹は、
静かに立っていた。
目の前には、
黒く染まった大樹。
その周囲を覆うように、
黒い霧が漂っている。
そして。
神殿の前に立つ者たち。
虚無の使徒。
四人。
その中央に、
一人だけ違う気配を放つ存在がいた。
「……幹部か。」
ガルドが呟く。
ベスは答えない。
ただ、
その姿を見る。
以前戦った虚無の使徒とは違う。
黒い霧の濃さ。
存在そのものの重さ。
だが。
まだ届かない。
ベスには分かっていた。
目の前の敵は強い。
しかし。
盟主ではない。
「なぜここを狙った。」
ベスが問う。
虚無の使徒幹部は、
ゆっくり顔を上げた。
「なぜ?」
「決まっている。」
黒い霧が揺れる。
「戻すためだ。」
「本来あるべき世界へ。」
レオンが眉を寄せる。
「……戻す?」
「そうだ。」
虚無の使徒は、
大樹の神殿を見る。
「この世界は間違っている。」
「争いも。」
「苦しみも。」
「歪んだ命も。」
「本来なら存在しなかった。」
ベスは目を細める。
違う。
そう言いたかった。
だが。
目の前の相手は、
嘘をついているわけではない。
本当に、
そう信じている。
「だから消す。」
「全てを灰にする。」
その言葉に、
ガルドの表情が変わる。
「……。」
「戻すと言いながら。」
剣を抜く。
「やっていることは破壊だ。」
虚無の使徒幹部は笑った。
「壊れたものは、壊すしかない。」
次の瞬間。
ベスが前へ出る。
ゆっくりと息を吐く。
腰の剣へ手を掛ける。
刀身へ、
蒼白い紋様が静かに浮かび上がる。
左腕のガントレットが、
小さく震える。
「……。」
何も言わない。
ただ、
前を見る。
左腕へ魔力が集まる。
銀色の装甲。
肩まで広がる白銀。
蒼白い紋様。
そして。
空中へ形を成していく。
巨大な狼の前脚。
フェンリル。
静かな鼓動。
ドクン。
ドクン。
ベスは剣を握る。
その切っ先を、
前へ向けた。
「――来い。」
その瞬間。
フェンリルが咆哮する。
ウゥォォォォォォォン!!
蒼白い光が、
継承者の剣から放たれた。
大樹の神殿前を、
光が駆け抜ける。
黒い外套を包む。
黒い仮面を照らす。
そして。
虚無の使徒たちを覆っていた黒い霧へ触れた。
魔を払う光。
本来なら、
闇を消し去る光。
しかし。
黒い霧は消えなかった。
「……。」
虚無の使徒幹部は、
静かに笑った。
「やはり。」
「継承者の光か。」
次の瞬間。
黒い霧が噴き出す。
光へぶつかる。
蒼白い光が押される。
消されるのではない。
押し返されている。
ベスの目が細まる。
「盟主から与えられた。」
虚無の使徒幹部は言う。
「新たな闇の縛り。」
「我々は、もう以前の存在ではない。」
黒い霧がさらに広がる。
光と闇が、
互いを押し合う。
その光景を見て、
ガルドが一歩前へ出る。
「……なるほど。」
「力を借りたか。」
ベスは剣を下ろさない。
まだだ。
ここで全てを出す必要はない。
相手も理解している。
これは、
始まりに過ぎない。
虚無の使徒幹部が手を上げる。
「行け。」
その声と同時に。
四人の虚無の使徒が動く。
短剣。
剣。
投げナイフ。
大槌。
それぞれが黒い霧を纏う。
さらに。
森の奥から、
大量の魔物が姿を現した。
灰鷹の団員たちが、
ノアを守るように動く。
ノアの横には、
猫。
小さな身体で、
静かに前を見る。
大樹の神殿前。
灰鷹と虚無の使徒。
戦いが始まる。




