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バル  作者: 隣の猫
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336/399

ウィレイ



朝。


オアシスに柔らかな光が差し込む。


ベスは静かに目を開けた。


眠りは浅かった。


これから向かう場所。


大樹の神殿。


そこにいるかもしれない虚無の使徒。


そして。


その先に待つ盟主。


考えれば、早く目が覚めてしまうのも当然だった。


ベスはゆっくりと身体を起こす。


周囲を見る。


まだ眠っている仲間たち。


静かなオアシス。


昨日までとは違う朝だった。


ベスは立ち上がる。


「……顔でも洗うか。」


泉へ向かって歩き出す。


その時。


風の音が聞こえた。


小さな風。


一定ではない。


まるで遊んでいるような風だった。


ベスは足を止める。


少し先。


アイラがいた。


弓を持っている。


最初は練習をしているのだと思った。


しかし。


違った。


矢を放っていない。


アイラの周囲を、小鷹が飛び回っている。


風が小さく渦を巻き、小鷹の翼を支えていた。


「……。」


ベスは黙って見つめる。


おそらく。


これは練習ではない。


いや。


最初はそうだったのかもしれない。


だが今は。


小鷹がアイラの邪魔をして。


その邪魔が、いつの間にか遊びになっている。


小鷹が風へ飛び込む。


アイラが少し困ったように笑う。


「もう。」


「練習できないじゃない。」


言葉とは違い、その声は優しかった。


小鷹は嬉しそうに旋回する。


アイラは弓を下ろし、その頭へ手を置いた。


「……本当に元気ね。」


小鷹は目を細める。


その様子を見て。


ベスは何も言わなかった。


二人の時間を邪魔する必要はない。


アイラが今、何を感じているのか。


ベスには分からない。


ただ。


遺跡で見た風とは違う。


あの時の風は、道を切り開くための力だった。


今の風は。


誰かと触れ合うためのものだった。


その時。


アイラがふと弓を構える。


小鷹が少し離れる。


背後。


小さな風が渦を巻き始める。


遺跡で見せた力。


風を集める。


圧縮する。


一本の矢へ変える。


しかし。


今回は敵へ向けない。


アイラは泉へ向かって放った。


風の矢が水面へ触れる。


次の瞬間。


大量の水が空へ舞い上がった。


朝日を受けた水滴が光る。


その中心に。


大きな虹が生まれる。


小鷹が嬉しそうに飛び回る。


アイラも小さく笑った。


ベスはその光景を静かに見つめる。


声はかけない。


今は。


この時間を邪魔するべきではないと思った。


やがて。


「ベス。」


後ろから声がする。


振り返る。


ガルドだった。


「準備はいいか。」


ベスは頷く。


その声に反応するように、灰鷹の仲間たちも集まってくる。


荷物を背負う。


武器を確認する。


再び旅が始まる。


ガルドは全員を見る。


「目指すは大樹の神殿。」


静かな声。


「虚無の使徒が何をしてくるか分からない。」


「最大限注意すること。」


全員が頷く。


ベスも前を見る。


まだ見ぬ場所。


まだ見ぬ敵。


それでも。


進むしかない。


ガルドが一歩踏み出す。


「では。」


一拍。


「行くぞ。」


灰鷹は歩き出す。


オアシスを後にする。


背後では。


守護獣たちが静かに見送っていた。


新たな旅路へ。


風が吹く。


その風の中には。























まだ小さな翼の気配が残っていた。

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