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バル  作者: 隣の猫
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ウィンアロー



静寂。


遺跡を満たしていた風が、わずかに揺らぎを取り戻す。


アイラは新しい弓を見つめた。


矢はない。


だが弦に指が触れた瞬間――空気が“鳴った”。


ゴ……ッ。


空間そのものが軋むような低音。


次の瞬間、風が“意思”を持ったように動き出す。


最初は微細な流れだったものが、一拍ごとに密度を増し、弓の前へ吸い寄せられていく。


ゴォォ……ッ!!


遺跡中の風が一斉に反転した。


壁を這っていた風が、床を抜けていた風が、天井を巡っていた風が――すべて一点へと“落ちる”。


空間が歪む。


視界が揺れる。


まるで世界そのものが、弓へ引き絞られていくように。


アイラは目を閉じた。


視るのは視界ではない。


流れだ。


風の流れ。


遺跡の記憶。


空間の呼吸。


それらすべてが、一本の“線”へと収束していく。


「そこ……」


弓が悲鳴のように軋む。


ギギギギ……ッ!!


圧縮された風がさらに重なり、空間が耐えきれないほどの密度へ達する。


ゴォォォォォォッ!!!


空気が裂けた。


音が遅れて追いつく。


遺跡全体が震え、石壁に走る亀裂が一斉に広がっていく。


狙うのは敵ではない。


ただ一つ。


風が示した“出口”。


ベスへ続く道。


「――お願い」


指が離れた。


その瞬間。


世界が“破裂”した。


ヒュォォォォォォンッ!!!


解き放たれた風は矢ではなかった。


奔流。


暴力的なまでの純粋な風圧。


一直線に空間を貫き、壁へ叩きつけられる。


ドゴォォォォンッ!!!


轟音。


遺跡が叫んだ。


天井が軋み、柱が悲鳴を上げ、床に走る亀裂が一気に広がる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


眠っていた構造が一斉に崩れ始める。


古代の紋様が狂ったように光を放ち、風の軌跡に呼応して暴走するように輝く。


光と風と崩壊が絡み合い、視界が白く焼ける。


そして――


閉ざされていた壁が、悲鳴を上げながら左右へ“引き裂かれた”。


メキメキメキッ……!!


石が砕ける音。


金属が歪む音。


長い沈黙が崩れる音。


冷たい外気が一気に流れ込む。


爆風のように。


新しい通路が、そこに“生まれた”。


アイラは静かに息を吐く。


「……開いた」


同時刻。


遺跡の反対側。


ベスは低い地鳴りに顔を上げた。


「!」


壁が震える。


次の瞬間――


ドンッ!!


内側から破裂するように、石壁が左右へ吹き飛んだ。


光が差し込む。


その向こうから。


一人の少女が歩いてくる。


風を纏い。


新しい弓を手に。


ベスは小さく笑った。


「……派手にやったな」


アイラもわずかに目を細める。


「約束したから」


「ベスが進める道は、ちゃんと開けるって」


ベスは頷く。


「ああ」


「十分すぎるくらいだ」


二人は並び、新しく開かれた道を見る。


その先には。


崩れた遺跡の隙間から差し込む光が、静かに揺れていた。


まるで。























長い眠りから目覚めた世界が、最初に呼吸をしているかのように。

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