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バル  作者: 隣の猫
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ストーム



風の迷宮。


その奥へ。


アイラは一人、歩き続けていた。


足元にあるのは、見えない道。


風だけが、その場所を教えてくれる。


一歩。


また一歩。


立ち止まれば、風は変わる。


迷えば、道も消える。


だから。


前だけを見て進む。


――怖くないわけじゃない。


胸の奥には、ずっと小さな不安があった。


もし一歩でも読み違えれば、自分は落ちる。


そして何より。


ベスを置いてきている。


あの場所で、ただ一人。


見えない道の先で、自分を信じて待っている。


(私が、道を作る)


それだけが、今の理由だった。


ベスは風を見られない。


だからこそ、自分が見なければならない。


自分が進まなければ、あの人は一歩も進めない。


そのためにここにいる。


やがて。


風が静かになった。


アイラは足を止める。


「……。」


見えない道は、ここで終わっていた。


目の前には、小さな空間。


何もない。


そう思った。


しかし。


胸の奥が、わずかにざわつく。


(違う)


何もないのではない。


“何かがある”のに、形がない。


風だけが一点へ集まっている。


生き物の気配ではない。


誰かがいるわけでもない。


けれど。


この場所だけ、風が流れ込んでいた。


まるで。


ここに向かうために、今まで歩いてきたように。


アイラはゆっくり歩き出す。


風に導かれるまま。


部屋の中央へ。


(ここが……終わり?)


いや。


終わりではない。


むしろ。


始まりのような気配だった。


そこには。


古びた台座があった。


そして。


一本の弓。


長い年月を経ても朽ちることなく。


静かに眠り続けている。


「これが……。」


アイラは息を呑む。


近づくだけで分かる。


普通の弓ではない。


ただの武器ではない。


“選ばれるもの”だ。


この遺跡が、ずっと守ってきた理由がそこにある気がした。


(これを手に入れれば、ベスのところへ戻れる)


違う。


それだけじゃない。


(ベスが進める道を、作れる)


そのために来た。


そのために、ここまで来た。


アイラはそっと手を伸ばす。


触れてもいいのか。


一瞬だけ迷う。


もし拒まれたら。


もしここで終わるなら。


それでも。


ここまで来た意味はある。


ベスは待っている。


自分が道を開くと約束した。


だから。


迷わない。


指先が、弓へ触れる。


その瞬間だった。


ゴォォォ……


静まり返っていた遺跡に。


風が唸りを上げる。


「……!」


穏やかだった風が、一斉に渦を巻く。


台座の弓が淡い光を放つ。


だがそれは、温かい光ではなかった。


まるで――目を開いた“何か”が、こちらを見返しているような光。


アイラの指先に、冷たい感触が走る。


次の瞬間。


弓の弦が、誰も引いていないのに――


きしり、と鳴った。


ヒュッ――


どこからともなく、矢を番える音。


空間そのものが、軋む。


アイラは息を呑む。


風が。























“こちらを見ている”。

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