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バル  作者: 隣の猫
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323/397

クエス



夜のオアシス。


静かな風が砂を撫でていた。


小さな火を囲みながら、灰鷹と守護獣たちはベスの話を聞いていた。


地下神殿で何が起きたのか。


なぜ、あれほどの戦いになったのか。


父鷹が静かに問いかける。


「継承者よ。」


「何を見た。」


ベスはしばらく黙っていた。


あの場所で見たもの。


失われた歴史。


そして。


自分の前に現れた男。


「……歴史を見た。」


その言葉に、誰も口を挟まない。


「神殿に残されていた記憶だった。」


「そこには、この世界の始まりがあった。」


ベスはゆっくりと話していく。


神々の争い。


人々の未来。


そして、そこで出会った存在。


「その後。」


「虚無の盟主と戦った。」


その名前を聞いた瞬間。


灰鷹の空気が少しだけ変わる。


ガルドも静かに目を伏せる。


地下神殿で感じた圧。


あの力は、今でも忘れられない。


「強かった。」


ベスは短く言った。


「俺たち全員でも届かなかった。」


父鷹は黙って聞いている。


「あいつは、俺に言った。」


「共に来い。」


「世界を救うために。」


焚き火の音だけが響く。


「意味が分からなかった。」


ベスは炎を見る。


「なぜ、あいつが世界を救おうとしているのか。」


「なぜ、俺を誘うのか。」


誰も答えを出せない。


ベス自身も、まだ答えを持っていなかった。


「そして……。」


一瞬、言葉が止まる。


「あいつは、セレネを知っていた。」


その瞬間。


空気が変わった。


父鷹の目が僅かに細まる。


母鷹の翼が静かに動く。


灰猫は目を開き、ベスを見る。


誰も声を出さない。


ただ。


その名前が落ちた瞬間。


何かが変わった。


ベスはそれに気付く。


「……知っているのか。」


父鷹は答えない。


しばらく沈黙が続く。


やがて。


ベスは続ける。


「俺は、セレネを助ける。」


その言葉に。


父鷹たちの表情が変わる。


ベスには、その理由が分からない。


自分にとっては。


ただ、約束だった。


遺跡で出会った少女。


いつか助けると決めた。


それだけだった。


だが。


守護獣たちは違う。


知っている。


語ることのできない何かを。


父鷹は静かに目を閉じた。


「……そうですか。」


小さな声。


「だから……。」


夜の風が止まる。


「神殿に、神の光が降りたのですね。」


その言葉に。


灰鷹の団員たちがざわめく。


神の光。


その意味を知る者はいない。


だが、父鷹の声には重さがあった。


本来なら。


「………………。」


それが守護獣としての役目。


しかし。


父鷹はゆっくりと顔を上げる。


迷いを残したまま。


それでも聞かなければならない。


「継承者よ。」


静かな声。


「お主は……。」


一拍。


「神の敵か。」





















夜のオアシスに、その言葉だけが残った。

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