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バル  作者: 隣の猫
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オアシス




砂漠を越えた先。


乾いた世界に広がる緑が、一行を静かに迎えた。


澄み渡る泉。


木々を揺らす優しい風。


穏やかな景色だった。



「着いた!」


小鷹が嬉しそうに空を舞う。


「父さん!」


「母さん!」



その声に応えるように、二羽の守護鷹が姿を現した。


母鷹は小鷹を優しく迎え入れ、父鷹は静かに目を細める。



「……無事だったか。」


「ただいま!」



小鷹は嬉しそうに頷く。


そして振り返った。


「約束どおり、みんな連れてきたよ!」


父鷹と母鷹はベスたちへ向き直る。


一瞬、風が止まったように感じられた。


オアシスの水音だけが、やけに遠く響く。



「神殿へ向かう時、我が子をお願いしました。」


父鷹は静かに頭を下げた。


「あの約束を守っていただき、ありがとうございます。」



母鷹も続ける。


「皆さんも、無事に帰ってきてくださって本当によかった。」


その言葉に、張り詰めていた空気がわずかに緩む。


だが、完全には解けない。


戦いの匂いが、まだ全員の身体に残っていた。


ベスは短く答える。



「あいつも頑張った。」


その視線の先では、小鷹が照れくさそうに羽を畳んでいる。



母鷹は一行の傷を見渡した。


レオンも。


ガルドも。


リシアも。


ノアも。


灰猫も。


誰一人、無傷ではない。




少し離れた場所では、アイラが壊れた弓を膝に乗せていた。


盟主との戦いで砕かれた愛弓。


手持ちの道具で少しずつ修復を試みる。


紐を結び直し、歪みを確かめる。


金属の軋む音だけが、静かに夜へ溶けていく。


それでもアイラは手を止めなかった。


母鷹はその様子を一度だけ見て、何も言わず視線を戻す。



「今日は何も考えず、ゆっくり休んでください。」


「ここは私たちが守ります。」


ガルドは深く頷いた。


「……感謝する。」


その声は低く、少しだけ掠れていた。



冷たい水が渇いた喉を潤す。


久しぶりの穏やかな食事。


だが、誰も多くは語らない。


食器の触れる音だけが、やけに大きく響く。



レオンは木陰へ横になり、そのまま目を閉じた。



リシアも皆の無事を確認すると、小さく安堵の息を漏らし、木へ背中を預ける。


そのまま、動かない。


疲労は限界を越えていた。



ノアは灰猫を膝へ乗せ、小鷹と楽しそうに話している。


だがその声も、どこか遠い。


夕日が沈む。


影が長く伸びる。


やがてオアシスは夜へと沈んだ。


焚き火が起こされる。



ぱち、ぱち、と薪のはぜる音だけが響く。


誰もすぐには口を開かなかった。


火を見ている。


ただ、それだけの時間が続く。


風が一度、強く吹いた。


炎が揺れ、影が歪む。



その瞬間だけ、誰もがわずかに身を強張らせる。


戦いの記憶が、まだ身体から抜けていない。


沈黙が、さらに深くなる。


言葉を出すことが、少しだけ怖いような静けさだった。



やがて父鷹が、ゆっくりと息を吐く。


そして、静かに口を開いた。


「……聞かせてください。」



一拍。


もう一拍。



焚き火の音だけが続く。


「神殿で、何があったのですか。」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が完全に変わった。



ベスは焚き火を見つめたまま、動かない。


炎が瞳に揺れる。


一度、瞬きをする。


そして――。


ゆっくりと息を吸った。


「……あれは。」


























ベスは静かに語り始めた。

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