シルフ
朝日が黒い山を照らし始める。
久しぶりに穏やかな朝だった。
「それじゃあ、出発するか。」
ガルドの一声で、全員が荷物をまとめ始める。
「任せて!」
小鷹は得意げに翼を広げた。
「オアシスまで案内するよ!」
その言葉に、団員たちも自然と笑みを浮かべる。
黒い大地を抜ける。
小鷹が先頭を飛ぶ。
魔物の姿は一匹もない。
「本当に来ないな。」
レオンが辺りを見回す。
「守護獣の気配を嫌っているんでしょう。」
ガルドが静かに答えた。
やがて景色は砂漠へ変わる。
照りつける太陽。
熱気が地面から立ち上る。
「暑い……。」
ノアが額の汗を拭う。
アイラも小さく息を吐く。
「砂漠は相変わらずですね……。」
その様子を見た小鷹は、ぱっと顔を上げた。
「任せて!」
「涼しくする!」
次の瞬間だった。
バサッ。
小さな翼が勢いよく広がる。
「おお、いい風――」
レオンが言いかけた、その瞬間。
ゴォッ。
「……ん?」
もう一度。
ゴォォォォッ!!
「え?」
さらに一拍。
ゴオオオオオオオオッ!!!
「ちょ、待て!」
「目がぁぁぁ!」
「前が見えねぇ!!」
砂が一気に巻き上がる。
視界、消失。
完全に砂嵐。
「小鷹ーーーっ!!」
「ご、ごめんーーーっ!!」
風が止まる。
……しん。
一瞬で静寂。
砂がゆっくりと落ちていく。
全員、砂まみれ。
髪も服も顔も、例外なく砂。
しばらく誰も動かない。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
レオンがゆっくり目を開ける。
「……今の、涼しかったか?」
その一言で。
ぷっ。
「ははっ……!」
誰かが吹き出した。
次の瞬間。
「無理だろそれは!」
「涼しさの方向が違う!」
「逆に熱いわ!」
一気に笑いが広がる。
ガルドまで、肩を小さく震わせていた。
小鷹は完全にしょんぼりしている。
「涼しくしたかっただけなのに……。」
その頭に、ノアがぽんと手を置く。
「うん、気持ちは伝わった。」
「たぶん“砂漠ごと冷やす”つもりだったんだよね。」
「それはそれで怖いけど。」
さらに笑いが起きる。
ベスは無言で顔の砂を払う。
「次は……風量を三割にかな。」
小鷹は真剣に頷く。
「三割……!」
「うん、分かった!」
レオンがぼそっと言う。
「絶対分かってない顔だな、それ。」
また笑いが起きる。
砂漠の真ん中。
全員が砂まみれのまま笑っている。
さっきまでの暑さが、少しだけ軽く感じられた。




