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バル  作者: 隣の猫
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アトリア



朝靄が訓練場を包んでいた。


まだ日も昇り切らない時間。


ベスは一人、木剣を握っていた。


右手に剣。


左腕には獣爪。


しかし今日は、振り方が少し違っていた。


振る。


止める。


ではない。


流れる。


右の斬撃が終わる前に、左腕が動く。


左腕が相手の動きを崩せば、


右の剣が自然とそこへ届く。


老人の言葉。


『武器を振るうな。身体で戦え。』


その意味を、まだ完全には理解していない。


それでも。


身体は少しずつ答えを探し始めていた。


何度も。


何度も。


同じ動きを繰り返す。


失敗する。


また最初から。


その姿を木陰から見ていたガルドが、小さく笑った。


「ようやく繋がり始めたか。」




昼前。


若い戦士たちを集めた合同訓練が始まる。


今日の内容は一対一ではない。


「三人一組。」


教官が告げる。


「一体の魔物を相手にする。」


「目的は討伐ではない。」


「連携だ。」


ベスの組は、レオンとアイラだった。


三人とも実力は高い。


だからこそ難しい。


誰もが前へ出られる。


誰もが決められる。


その強さが、逆に動きを重ねさせていた。




開始直後。


レオンが踏み込む。


同時にベスも動く。


肩がぶつかった。


「悪い!」


「気にするな!」


その隙に魔物が距離を取る。


今度はアイラが動く。


距離を取りながら弓を引く。


しかし。


レオンが前へ出たことで、射線が重なる。


一瞬、矢を放つ手が止まった。


「……。」


レオンが小さく舌打ちする。


三人とも強い。


だが。


三人で戦えていない。




「止め!」


教官の声が響く。


三人は息を整えながら下がる。


教官は静かに言った。


「お前たちは全員、自分を信じすぎている。」


ベスは黙って聞く。


「強い者ほど、ここで迷う。」


「一人なら勝てる。」


「だから三人でも、一人で勝とうとする。」


その言葉に、


ベスは北部砦の戦いを思い出した。


盾で守る者。


矢で支える者。


最後に決める者。


誰か一人が強かったから勝ったわけではない。


全員が自分の役割を果たしたから勝てた。




午後。


再び訓練が始まる。


今度は違った。


ベスが一歩引く。


レオンが前へ出る。


魔物の視線が集まる。


その瞬間。


アイラが横へ回る。


魔物が反応する。


そこで初めて、


ベスが動いた。


低く滑り込む。


左腕の獣爪で足を払う。


体勢が崩れる。


「今!」


レオンの剣が走った。


魔物が倒れる。


静寂。


教官が頷く。


「今のだ。」


「それが連携だ。」


ベスは少しだけ笑った。


「俺が決めなくても、勝てるんだ。」


レオンが肩を叩く。


「やっと分かったか。」


アイラも小さく笑う。


「その方が強いよ。」




夕暮れ。


訓練場を後にする三人。


レオンがふと口を開く。


「ベス。」


「次に本気で戦う時。」


「俺は手加減しない。」


ベスは笑う。


「してもらった覚えないけど。」


「確かに。」


二人は声を上げて笑った。


アイラはそんな二人を見て、


少しだけ安心したように息を吐いた。


ライバル。


それだけでは足りない。


互いを高め合う存在。


二人は少しずつ、そんな関係になっていた。




その夜。


中央島の高い塔。


一人の黒衣の男が静かに立っていた。


風が外套を揺らす。


手には一本の古びた短剣。


男は昼間の訓練場を見下ろしていた。


ベス。


灰鷹。


そして、その周囲にいる者たち。


しばらく眺める。


「……。」


何も言わない。


表情も変わらない。


ただ。


確認するように、静かに目を閉じる。


やがて。


黒衣の男は夜の闇へ消えていった。


誰も知らない。


その男が、
























遠い過去と繋がる存在であることを。

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