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バル  作者: 隣の猫
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ラグヴィル



「……久しぶり。」


暗闇の中。


その声だけが、崩れた空間に落ちた。


低く、湿った空気が喉にまとわりつく。



どこかで石が軋む音がした。

崩落の余韻が、まだ地下神殿の奥で生きている。


ベスはゆっくり振り返る。



瓦礫の隙間から、微かな光が漏れていた。

天井の裂け目から落ちる光ではない。

この空間そのものが、かすかに脈打つように光を滲ませている。



「……ユナ。」


そこにいたのは。


東の大陸で出会った少女。


ユナだった。



「久しぶり。」


変わらない声。

変わらない表情。



だがその周囲だけ、空気の密度が違う。

音が吸い込まれているように静かだった。


遠くで石が崩れる音がしても、ここには届かない。


まるでこの一角だけ、世界から切り離されているように。



なぜここにいるのか。


それだけが分からない。


「なぜここにいる。」


ベスは警戒する。



足元の瓦礫がわずかに鳴る。

その音がやけに大きく響いた。


ユナは少し黙った。


「……。」



崩落の奥で、低い風のような音が流れている。

それは風ではない。

空間そのものが歪むような、嫌な気配だった。



そして。


小さく呟く。


「説明。」


少し間。


「苦手。」


「……。」


「ごめん。」



ベスは小さく息を吐く。


この状況でも。


ユナは変わらない。


だがその瞳だけは、暗闇の中でもはっきりと見えた。

揺れていない。



「神は。」


「あなたを見てた。」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が一段、重くなる。


ベスの表情が変わる。


「どういう意味だ。」


ユナは答えない。


代わりに、遠くでまた石が崩れる音がした。

それは近づいているのか、遠ざかっているのかも分からない。



「……。」


「もう。」


「始まってる。」


「何がだ。」


沈黙。



地下の闇が、わずかに揺れる。


ベスの頭に蘇る。


盟主が見せた歴史。



神。


失われた世界。



「なぜ俺なんだ。」


ユナはベスを見る。


その視線の奥に、何か遠いものが一瞬だけ揺れた。


「あなたは。」


「フェンリルの継承者。」



その言葉に。


ベスの目が僅かに揺れる。


崩落の音が、また一つ遠くで響いた。



「神は。」


「あなたを見てた。」


「でも。」


少し間。


「変わった。」


「今は。」


「排除対象。」



静寂。



地下神殿の空間が、まるで息を止めたように静まる。


その沈黙だけが、重く残る。


「なぜ分かる。」



ベスが問う。


ユナは少しだけ目を伏せた。


その瞬間、周囲の光がわずかに揺れた。

壁面の光脈が、脈打つように明滅する。



「……。」


「身喰らう蛇だから。」



その名前。


空間の奥で、何かが反応したように空気が震えた。



だがユナはそれ以上を語らない。


ただ、崩落の奥から近づくような気配だけが、確かにあった。



「これから。」


ユナが言う。


「神の先兵が来る。」


「身喰らう蛇も。」


「あなたを探す。」



ベスは剣に手を添える。


金属がわずかに鳴る音が、やけに鋭く響いた。


また。



新しい敵が現れる。


だがそれ以上に。


この空間そのものが、何かに見られているような感覚があった。


「なぜ俺を助ける。」


ユナは少し考える。


言葉を探す。


第三百十四章 身喰らう蛇


「……久しぶり。」


暗闇の中。


その声だけが、崩れた空間に落ちた。


低く、湿った空気が喉にまとわりつく。


どこかで石が軋む音がした。

崩落の余韻が、まだ地下神殿の奥で生きている。


ベスはゆっくり振り返る。


瓦礫の隙間から、微かな光が漏れていた。

天井の裂け目から落ちる光ではない。

この空間そのものが、かすかに脈打つように光を滲ませている。


「……ユナ。」


そこにいたのは。


東の大陸で出会った少女。


ユナだった。


「久しぶり。」


変わらない声。

変わらない表情。


だがその周囲だけ、空気の密度が違う。

音が吸い込まれているように静かだった。


遠くで石が崩れる音がしても、ここには届かない。


まるでこの一角だけ、世界から切り離されているように。


なぜここにいるのか。


それだけが分からない。


「なぜここにいる。」


ベスは警戒する。


足元の瓦礫がわずかに鳴る。

その音がやけに大きく響いた。


ユナは少し黙った。


「……。」


崩落の奥で、低い風のような音が流れている。

それは風ではない。

空間そのものが歪むような、嫌な気配だった。


そして。


小さく呟く。


「説明。」


少し間。


「苦手。」


「……。」


「ごめん。」


ベスは小さく息を吐く。


この状況でも。


ユナは変わらない。


だがその瞳だけは、暗闇の中でもはっきりと見えた。

揺れていない。


「神は。」


「あなたを見てた。」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が一段、重くなる。


ベスの表情が変わる。


「どういう意味だ。」


ユナは答えない。


代わりに、遠くでまた石が崩れる音がした。

それは近づいているのか、遠ざかっているのかも分からない。


「……。」


「もう。」


「始まってる。」


「何がだ。」


沈黙。


地下の闇が、わずかに揺れる。


ベスの頭に蘇る。


盟主が見せた歴史。


神。


失われた世界。


隠されたもの。


「なぜ俺なんだ。」


ユナはベスを見る。


その視線の奥に、何か遠いものが一瞬だけ揺れた。


「あなたは。」


「フェンリルの継承者。」


その言葉に。


ベスの目が僅かに揺れる。


崩落の音が、また一つ遠くで響いた。


「神は。」


「あなたを見てた。」


「でも。」


少し間。


「変わった。」


「今は。」


「排除対象。」


静寂。


地下神殿の空間が、まるで息を止めたように静まる。


その沈黙だけが、重く残る。


「なぜ分かる。」


ベスが問う。


ユナは少しだけ目を伏せた。


その瞬間、周囲の光がわずかに揺れた。

壁面の光脈が、脈打つように明滅する。


「……。」


「身喰らう蛇だから。」


その名前。


空間の奥で、何かが反応したように空気が震えた。


ベスは知っていた。


東の大陸で見た紋章。


だがユナはそれ以上を語らない。


ただ、崩落の奥から近づくような気配だけが、確かにあった。


「これから。」


ユナが言う。


「神の先兵が来る。」


「身喰らう蛇も。」


「あなたを探す。」


ベスは剣に手を添える。


金属がわずかに鳴る音が、やけに鋭く響いた。


また。


新しい敵が現れる。


だがそれ以上に。


この空間そのものが、何かに見られているような感覚があった。


「なぜ俺を助ける。」


ユナは少し考える。


言葉を探す。


だが、答えは形にならない。


代わりに。


「行く。」


「出口。」


そう言って。


ユナは歩き出す。


足音はほとんどしない。

崩れた石の上を歩いているはずなのに、まるで地面が彼女を拒まない。


ベスはその背中を見る。


敵なのか。


味方なのか。


まだ分からない。


それでも。


今は進むしかない。


遠くで、また何かが崩れる音がした。


それは出口へ向かう道の先から聞こえていた。


ベスはユナの後を追う。


崩れ続ける地下神殿の奥へ。


出口を求めて。


二人は歩き始めた。


だが、答えは形にならない。


代わりに。


「行く。」


「出口。」



そう言って。


ユナは歩き出す。


足音はほとんどしない。

崩れた石の上を歩いているはずなのに、まるで地面が彼女を拒まない。



ベスはその背中を見る。


敵なのか。


味方なのか。


まだ分からない。


それでも。


今は進むしかない。


遠くで、また何かが崩れる音がした。



それは出口へ向かう道の先から聞こえていた。


ベスはユナの後を追う。


崩れ続ける地下神殿の奥へ。


出口を求めて。
























二人は歩き始めた。

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