アレエラ
ゴゴゴゴゴゴ……!!
地下神殿の崩壊は止まらない。
天井が砕ける。
石柱が倒れる。
床が裂ける。
「ベス!」
ガルドが叫ぶ。
「退くぞ!」
レオンが頷く。
アイラとリシアも走り出す。
だが。
ベスだけは動けなかった。
視線の先。
盟主は。
なお神を見上げていた。
降り注ぐ白い光。
押し返す黒い闇。
その狭間で。
ただ一人。
立ち続けている。
「……。」
盟主はゆっくりとベスを見る。
その瞳に映るのは。
恐怖。
迷い。
そして。
届かなかった現実。
「そうか。」
小さく呟く。
「俺は。」
「お前を。」
「買い被っていた。」
怒りはない。
失望もない。
ただ。
一つの答えへ辿り着いた。
「この程度では。」
「まだ。」
「足りないか。」
ベスは何も言えない。
盟主は静かに背を向けた。
その先には。
虚無の使徒たち。
全員が膝をつき。
盟主の言葉を待っていた。
「聞け。」
その一言で。
空気が凍る。
「散れ。」
「四つの大陸へ。」
誰も動かない。
ただ、息だけが止まる。
盟主は続ける。
「世界を壊せ。」
静寂。
「人を殺せ。」
「街を焼け。」
「絶望を広げろ。」
その言葉は。
命令というより。
世界の終わりの宣告だった。
使徒たちは、ただ受け入れる。
疑いも。
揺らぎもない。
盟主は最後に。
もう一度だけ。
ベスを見る。
「お前は。」
「必ず立ち上がる。」
「守るために。」
「その時。」
「俺の元へ来い。」
「今度こそ。」
「自分の意思で。」
ベスの胸が揺れる。
言葉の意味は分からない。
だが。
その奥にあるものだけが。
妙に胸に残る。
「ベス!!」
ガルドの声が現実へ引き戻す。
ベスは拳を握る。
盟主を見据える。
そして。
踵を返した。
走る。
崩れゆく神殿の中を。
その背を。
盟主は追わない。
ただ。
見送る。
沈黙のまま。
やがて。
誰もいなくなった空間に。
崩落の音だけが残る。
白い光はまだ降り続き。
黒い闇はまだそこにある。
その中心で。
盟主は、誰にも届かない声で呟いた。
「……来い。」
音にならない。
祈りでもない。
命令でもない。
ただ。
空間に落ちた一滴のように。
静かに。
消えていくはずの言葉。
だが。
崩れゆく地下神殿は。
その一言だけを。
なぜか。
いつまでも飲み込めずにいた。




