ゼファー
ゴゴゴゴゴゴ……!!
地下神殿全体が激しく揺れる。
石柱が軋む。
天井から砂と瓦礫が降り注いだ。
「何だ……!」
レオンが声を上げる。
ガルドは剣を構えたまま天井を見上げる。
揺れは止まらない。
まるで。
世界そのものが軋んでいる。
その時だった。
ズドォォォォォン!!
轟音。
地下神殿の天井を貫き。
一本の光が降り注いだ。
白。
ただ白い。
それは色ではない。
熱を持たないのに、肌を焼く光。
冷たいのに、骨の奥まで侵食してくる光。
雪のように無垢でありながら、
触れた瞬間すべてを“無かったこと”にしようとする白。
視界が焼ける。
音が消える。
空気が消える。
それでもなお。
そこに“在る”とだけ分かる光。
だが。
誰一人。
それを美しいとは思えなかった。
むしろ。
氷の中に閉じ込められたような恐怖。
呼吸が凍る。
血が止まる。
生きていることだけが異物になる。
ベスの左腕。
フェンリルが激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
拒絶。
本能が叫んでいる。
「近づくな」と。
リシアは息を呑む。
吐いた息が白く凍りかける錯覚。
アイラは弓を握る指が動かない。
金属が熱を失い、氷のように重い。
レオンの視界が揺れる。
光なのに、影より暗い。
ガルドだけが。
歯を食いしばりながら、その光を睨み続けていた。
その時。
盟主は動かない。
ただ。
光を見上げる。
沈黙。
音が消えた世界で。
盟主の呼吸だけが、わずかに残る。
やがて。
笑った。
それは温度のない笑み。
喜びでも怒りでもない。
ただ“認識”が歪んだ時の反応。
「……そうか。」
低い声。
「見ていたか。」
光が、わずかに脈打つ。
それに呼応するように。
空間が軋む。
白と黒の境界が、きしむ音を立てる。
「……また。」
「俺から。」
「奪うつもりか。」
その声は静かだった。
静かすぎて。
まるで“世界の外側”から響いているようだった。
盟主はベスを見ない。
ただ。
光の中心だけを見据えている。
「今度は。」
「こいつまで。」
「俺から。」
ドクン。
影が脈打つ。
それはもう“影”ではない。
光に対する反転。
温度を持たない黒。
冷たさすら超えた“虚無の色”。
一度。
二度。
三度。
ズガァァァァァン!!
黒が“溢れた”。
爆発ではない。
侵食でもない。
白が黒に飲まれるのでもない。
ただ。
世界の意味そのものが、裏返る。
光が揺らぐ。
白が歪む。
色が“温度”を失っていく。
熱いはずの光が、凍る。
冷たいはずの闇が、燃える。
「……っ!」
ガルドの瞳が揺れる。
違う。
これは力ではない。
現実そのものの“定義”がずれている。
ベスも息を呑む。
(これが……)
(盟主の……)
言葉が途切れる。
理解が追いつかない。
闇の奥で。
“何か”が目を開く。
形ではない。
輪郭でもない。
ただ。
白と黒の境界を“見返してくる視線”だけが生まれる。
その瞬間。
盟主が一歩踏み出す。
「二度と。」
「奪わせない。」
ズドォォォォォン!!
その一歩で。
世界が軋む。
白が震える。
黒が広がる。
境界が崩れる。
誰も。
動けない。
ただ。
光と闇の狭間で。
盟主だけが。
神を見据えていた。




