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バル  作者: 隣の猫
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312/398

カルジェ



封印の間に、重い沈黙が落ちる。




誰も動かなかった。




ベスと盟主。




互いに視線を逸らさない。




ベスの喉が、わずかに上下する。


呼吸は浅い。


剣を握る手に、微細な力が入り続けていた。




盟主は動かない。


仮面の奥の闇だけが、かすかに揺れている。



長い沈黙。




やがて。




「……なぜ。」




盟主の声。


掠れていた。




その一言に、ベスの肩がわずかに反応する。




「なぜ……来ない。」




盟主の指先が、ほんの僅かに震える。


抑えている。


それでも漏れている。




ベスは一度、息を吸う。


視線を逸らさないまま、静かに答える。




「答えは言った。」




「俺は今を守る。」




盟主の顎が、わずかに動く。


歯を噛み締めた痕跡。




「違う。」




短く。




「違う。」




まるで自分の言葉を否定するように。


呼吸が一瞬だけ乱れる。




「フェンリルが……。」




言葉が途切れる。


盟主の拳が、ゆっくりと握り込まれる。




「お前が……。」




そこで再び止まる。


喉の奥で押し殺した音。




「必要だ。」




沈黙。




「助けられない。」




「セレネを。」




その一言だけは、

はっきりと落ちた。




ベスは一瞬だけ目を閉じる。


まぶたの裏で、迷いが揺れる。


だがすぐに開く。



「それでも。」




「俺は行かない。」




その瞬間だった。




ズ……




盟主の影が揺れる。




足元から黒い闇が滲み出す。


呼吸と同じリズムで、空間が歪む。




床を這う。




壁を染める。




天井へと伸びていく。




ドォン……




空気が沈む。




リシアの膝が崩れる。




アイラが息を呑む。




レオンの歯が鳴る。




ガルドは剣を地面に突き立て、

肩で呼吸を支えている。




ベスの呼吸が一瞬止まる。


次の瞬間、無理やり吸い込む。


(違う。)




(今までとは……。)




喉が乾く。


視線が揺れそうになるのを、無理やり固定する。




(これが……。)





今までの戦い。


あれは確かに“試し”だった。




盟主は一歩踏み出す。




その一歩で、空間が軋む。




黒い影がベスへ伸びる。




あと少し。




届く。




だが。




止まる。




仲間には触れない。


ベスにも、まだ触れない。




影だけが、呼吸するように揺れている。




盟主の胸が、わずかに上下する。


抑えきれない感情が、形になりかけては崩れる。




力で従わせても。


仲間を傷つけても。




それでは届かない。


セレネには。




「……っ。」




影が激しく波打つ。




怒り。




期待。




失望。




それらが喉の奥で絡まり、言葉にならない。



その時。




ゴゴゴゴゴ……。




地下神殿全体が、

大きく揺れた。




ベスの瞳が、わずかに揺れる。


盟主の視線が、初めて上へ向く。




天井から、

砂埃が降り注ぐ。




石柱に亀裂が走る。




揺れは止まらない。




まるで。




何かが。



























この地下神殿へ近づいてくるかのように――。

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