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バル  作者: 隣の猫
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ルミエラル



黒い影が広がる。




盟主の影が、わずかに揺れた。




それだけで、

封印の間全体の影が一斉にざわめく。




槍。


剣。


鎖。


無数の黒い刃が、

ベスへ向かう。




だが。




ベスは左腕を前へ出した。




銀色の獣爪。




フェンリル。




その爪が、

床へ向かって振り下ろされる。




ガギィィン!!




飛んだ。




銀色の爪が、

床を削る。




一本。


二本。


三本。




残った爪痕が、

まるで道のように伸びていく。




次の瞬間。




ベスの身体が消えた。




影ではない。




爪が残した軌跡。


その全てを足場にする。




空間を駆ける。




右。




左。




上。




盟主の影が追う。




だが。




届かない。




盟主が、

初めて顔を上げた。




ベスは死角へ回る。




剣。




振り下ろす。




だが。




盟主は見ない。




ただ。




剣だけを動かした。




キィィン!!




黒い刃が、

ベスの剣を逸らす。




その瞬間。




闇が迫る。




ベスの背後。




横。




足元。




全ての方向から。




だが。




ベスは止まらない。




銀色の前脚。




剣。




身体。




全てを同時に動かす。




一撃目。




盟主の剣。




ガギィィン!!




剣で受ける。




二撃目。




黒い拳。




ガントレットで受ける。




三撃目。




影を纏った刃。




フェンリルの前脚が顕現する。




銀色の爪が、

黒い刃を受け止める。




四撃目。




一瞬。




空気が変わった。




ベスの左腕。




その奥。




今まで届かなかった場所から、

さらに大きな気配が溢れる。




白銀の光。




巨大な獣の輪郭。




もう一つの前脚。




フェンリル。




右前脚。




ガギィィィン!!




黒い一撃を、

真正面から受け止めた。




盟主の瞳が、

初めて大きく開く。




その驚きは、

一瞬で消えた。




代わりに残ったのは、

値踏みするような静けさだった。




一瞬。




本当に一瞬だけ。




ベスとフェンリルの境界が、

重なった。




ベスはそのまま踏み込む。




左腕。




獣爪。




フェンリル。




全てを乗せる。




盟主へ。




一直線。




ズドォォォォン!!




衝撃音。




封印の間全体が揺れる。




石床が沈む。




遠くの石柱へ亀裂が走る。




普通なら。




決まる一撃だった。




黒い影が、

大きく揺れる。




だが。




次の瞬間。




静かになった。




盟主の周囲へ広がっていた影が、

ゆっくりと収まっていく。




ベスは息を荒げる。




盟主は、

何事もなかったように立っていた。




ただ。




その仮面の奥から、

乾いた笑いが、ひび割れるように漏れる。




低く。




冷たく。




まるで、

最初からこうなると知っていた者の笑いだった。




盟主はゆっくり振り返る。




虚無の使徒たちの元へ歩いていく。




誰も動かない。




足音はない。




影だけが、

その背に従う。




そして。




階段の前で、

足を止める。




しばらくの沈黙。




振り返る。




仮面の奥の闇が、

ベスを見据える。




「合格だ。」




短く。




冷たく。




「共に神を殺そう。」




一拍。




「世界を救おう。」




さらに一拍。




「セレネを救おう。」




その声は、

祈りではない。




宣告だった。




その言葉だけを残し、

盟主は再び背を向けた。



























仮面の奥に、

冷たい狂気だけを灯したまま。

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