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バル  作者: 隣の猫
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307/398

サヴァリス



盟主へ光を飛ばすしながら

ベスが迫る。




一歩。


床を蹴った瞬間、石畳が鈍く鳴った。


二歩。


靴底が滑るように加速し、空気が裂ける。


三歩。


身体が矢のように前へ伸びる。




一気に距離が詰まる。




盟主は、まだ動かない。


ただ足元の影だけが、ぬらりと粘つくように揺れた。




その影が床を走る。


黒い筋となって伸び、


槍へ。


剣へ。


鎖へ。


形を変えながら、冷たい気配をまとってベスへ迫る。




だが。


その瞬間。




ベスの姿が消えた。




影が追いつかない。


黒い刃が空を裂き、遅れて床を叩く。




次の瞬間。




白銀の剣が、


盟主の目の前へ届いていた。




キィィィン!!




甲高い金属音が封印の間に突き刺さる。


黒い刃と白銀の剣がぶつかり、火花が散った。


衝撃が腕から肩へ、肩から背へと一気に抜ける。




鍔迫り合い。




ベスは押し込む。


剣越しに伝わる重みは、まるで鉄塊を押しているようだった。


盟主は影の力で受け止める。


見えない圧が剣身を軋ませ、刃と刃の間で嫌な震えが走る。




床を走っていた黒い筋が、


ベスの足元へ伸びる。


石の隙間を這うように、冷たい気配が絡みつく。


だが。


あと一歩。


届かない。




盟主の仮面の奥が、


僅かに揺れた。




次の瞬間。


盟主が動く。




一撃目。


剣。




黒い刃が横から迫る。


風を切る音が遅れて耳を打つほど速い。




ベスは剣で受け止める。




ガギィィン!!




鈍く重い衝突音が響き、腕が痺れる。


受けた瞬間、刃の重さが骨まで響き、手のひらの内側が焼けるように熱を持つ。




二撃目。


ガントレット。




反対側から拳が迫る。


空気が圧縮され、拳の軌道に沿って低い唸りが生まれる。




左腕。




フェンリル。




銀色の巨大な前脚が顕現する。


魔力が弾けるように走り、銀の輪郭が一瞬で形を成す。




ガギィィン!!




黒い拳を受け流す。


衝撃が前脚を伝い、床にまで震動が落ちる。


石がきしみ、足元の空気が押し潰される。




三撃目。




影を纏った腕。




死角から迫る一撃。


見えた時にはもう遅いほどの速度で、黒い残像だけが尾を引く。




ベスは身体を捻る。


避ける。


肩口をかすめた風が、皮膚を薄く削るように冷たい。




剣。


ガントレット。


フェンリル。




三つの動きが、


一瞬の中で重なる。


それぞれが別の重さを持ちながら、ひとつの流れとして噛み合う。




盟主の拳が戻る。




裏拳。




ベスは反射的に身体を沈める。




紙一重。




黒い風が頬を掠める。


頬の表面がひりつき、遅れて熱が走る。




だが。




避けた先。




床から黒い影が伸びる。


ぬめるように、鋭い刃の形へ変わりながら足元を狙う。




刃。




ベスは剣を合わせない。




滑らせる。




金属同士が擦れる甲高い音を残し、刃先を受け流す。




逸らす。




黒い力の流れを、


そのまま利用する。


影の勢いを殺さず、逆に自分の回転へ変える。




身体が回る。




回転。




衣が翻り、空気が渦を巻く。


白銀の剣が弧を描いて走る。




盟主の身体へ。




しかし。




黒い手が伸びる。




掴む。




盟主が、


ベスの剣を止めた。




「……!」




金属が軋む。


握り潰されるような圧が剣身にかかり、刃が悲鳴を上げる。




ベスは迷わない。




掴まれた剣。


そのまま支点にする。




身体を浮かせる。


腕に伝わる衝撃を逆に使い、重心を一気に持ち上げる。




足を振り上げる。




蹴り。




同時。




フェンリルの前脚が、


上空から振り下ろされる。


銀の軌跡が空気を裂き、落下の圧で周囲の気配が押し潰される。




二つの攻撃。




盟主へ迫る。




その瞬間。




黒いガントレットが動く。




ガギィィン!!




蹴りが止まる。


鈍い衝撃が足先から膝へ、膝から腰へと走り、盟主の身体がわずかに沈む。




そして。




黒いモヤ。




一瞬だけ。


盟主の腕から、


深い闇が溢れる。


粘るような、濃い影が空気を重くし、視界の端を曇らせる。




フェンリルの前脚へ絡み付く。




銀。


黒。




二つの力がぶつかる。


火花のような魔力の粒が散り、ぶつかり合うたびに耳の奥が痺れる。




拮抗。




だが。




盟主が振り払う。




衝撃。




ベスの身体が弾き飛ばされる。


空中で視界が揺れ、風が全身を叩く。




しかし。




飛ばされた力を、


そのまま利用する。




身体を捻る。


空中で軸を作り、勢いを殺さずに受け流す。




靴底が床を打ち、短く乾いた音が響く。




距離が開く。




静寂。




封印の間。




再び。


二人は向かい合う。




ベスの左腕。


銀色の前脚。




その動きは、


もう以前とは違っていた。


魔力の立ち上がりも、踏み込みの重さも、ひとつひとつが噛み合っている。




力を借りる。


ではない。




共に動く。




盟主は静かに見つめる。




ベスもまた、


剣を構えたまま視線を返す。




まだ届かない。




だが。




確実に。

























境界へ近付いていた。

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