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バル  作者: 隣の猫
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ナリスン



キィィィン!!


灰色の剣と氷剣がぶつかり合う。


火花の代わりに、冷たい音だけが地下神殿に響いた。


ガルドは前へ出る。


リシアが半歩後ろから剣筋を繋ぐ。


二人の呼吸は乱れていたが、動きだけは噛み合っていた。


押す。


逸らす。


受ける。


返す。


その繰り返しの中で、少しずつ、ほんの少しずつ、盟主との距離を詰めていく。




「今だ!」


ガルドは踏み込んだ。


その瞬間だった。




足元の影が、妙に濃く見えた。


石床に落ちた自分の影が、ただ黒いだけではなく、底のない穴みたいに沈んでいる。


一瞬、視界の端でそれが揺れた気がした。


いや、揺れたのは影ではなく、床そのものだったのかもしれない。


ガルドの喉がひくりと鳴る。


嫌な違和感だった。


踏み込みの勢いを止めるには遅すぎる。


それでも、足を引くより先に身体が前へ出た。




その瞬間。


空気が、変だった。


耳の奥が詰まる。


音が遠のく。


自分の靴底が石床を蹴る音だけが、やけに近く、やけに鈍く響く。


次の瞬間には、視界の輪郭がずれた。


目の前の景色が、ほんの一拍だけ横へ滑ったように見える。


床も壁も、盟主の姿さえも、全部が一瞬だけ噛み合わない。


「……っ」


息を吸おうとして、うまく入らない。


背筋に冷たいものが走る。


何が起きた。


そう思った時にはもう、足元の感覚がなかった。




ガルドは反射的に剣を構える。


だが、構えたはずの身体が、妙に軽い。


いや、軽いのではない。


自分だけが、そこにいないような感覚だった。


床を踏んでいるはずなのに、踏みしめた重みが返ってこない。


胃の底がふっと浮く。


次の瞬間、視界の向こうにあるはずのリシアが、信じられないほど遠くにいた。




「……リシア?」


声が掠れる。


さっきまで隣にいた。


半歩後ろにいた。


剣を合わせれば届く距離にいたはずなのに。


今はもう、数十歩先にいる。


いや、数十歩という感覚すら怪しい。


距離が伸びたのではなく、空間そのものが抜け落ちたみたいだった。


ガルドの背中に冷たい汗が滲む。


「リシア!」


叫ぶ。


返事を待つより先に、床を蹴った。




走る。


だが、足が妙に重い。


踏み出しているのに、前へ進んでいる実感が薄い。


視界の端で、石床の模様が流れていく。


なのに、近づいている気がしない。


嫌な焦りが胸を締めつける。


届く。


あと少し。


そう思うたびに、距離だけが変わらない。




リシアがこちらを見る。


「団長!」


その声が聞こえた。


だが、声の位置までおかしい。


近いはずなのに、どこか薄く、遠く、壁越しに聞いているようだった。




盟主は静かに歩いていた。


何事もなかったように。


リシアの前へ。


その動きだけが、妙に滑らかで、こちらの混乱を嘲笑うみたいに見える。


ガルドはさらに速度を上げる。


肺が焼ける。


喉が痛い。


それでも足を止められない。




あと少し。


あと数歩。


届く。


今度こそ届く。


そう思った、その瞬間だった。




ドォォォン!!




リシアの身体が宙へ浮いた。


衝撃で氷の粒が散る。


三撃目。


受け切れなかった一撃が、彼女の身体を床から引き剥がした。


そのまま石床を大きく滑っていく。




「リシアァ!!」


























ガルドの叫びだけが、地下神殿に響き渡った。

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