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バル  作者: 隣の猫
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ルネイル



カツン。


乾いた足音が、封印の間に落ちた。


それきり、音は途切れる。




黒い影が、階段を下りてくる。


一歩。


また一歩。


足音は少ない。だが、そのたびに空気だけが重くなる。

広間の奥へ進むほど、息を吸うのが難しくなっていった。




階段の上で、虚無の使徒たちが左右へ割れる。


命じられたわけではない。

ただ、その影の前では、そうするしかなかった。


武器の擦れる音すらない。

沈黙だけが、道を開けていく。




中央を歩く影。


黒い外套。

黒い仮面。

左腕を覆う黒いガントレット。


姿は人に似ている。

だが、近づくほどに分かる。


そこにあるのは、人の気配ではなかった。




ベスは、わずかに息を止めた。


神殿の入り口で聞いた言葉が、胸の奥で蘇る。


『盟主が待っている。』




今なら分かる。


目の前の存在。

この圧力。

虚無の使徒たちが道を開ける理由。


すべてが、ひとつに繋がった。




(あれが……。)


(虚無の盟主。)




盟主は歩みを止める。


封印の間の中央。

灰鷹と、真正面から向き合う。




誰も声を出さない。


レオンも。

アイラも。

リシアも。

ガルドも。

ノアも。

そしてベスも。


ただ、互いを見ていた。




盟主の視線が、灰鷹をゆっくりと辿る。

最後に、ベスで止まる。


長い沈黙。




やがて、黒い仮面の奥から声が落ちた。


「……ようやく。」


それだけだった。


怒りはない。

憎しみもない。


ただ、長く待ち続けた者の声だった。




少しの間を置いて、盟主は続ける。


「待っていた。」




ベスは剣を握り直す。


答えない。

目を逸らさない。




盟主が、ゆっくりと右手を上げる。




その合図だけで、虚無の使徒たちが動いた。


だが、前へ出るのではない。


一歩。

二歩。


音もなく、後ろへ下がる。


柱の陰へ。

壁際へ。

広間の端へ。


中央だけが、ぽっかりと空いた。




レオンが、かすかに眉を寄せる。


「……一人で来るのか。」


アイラは目を細めたまま、盟主を見据える。


「私たちを相手にする気はない、ということですか。」




ガルドは何も言わない。


ただ、その沈黙の意味を受け取っていた。


これは余裕ではない。

最初から、そうするつもりだったのだ。

















大事な客人を、使用人に相手させる者はいない。


















盟主はベスを見る。


「見せてくれ。」


短い言葉。


「お前が。」


「どれほど変わったのか。」




盟主はもう何も言わない。


ただ、静かに立っている。


その沈黙が、次の一手を待っていた。




ベスが剣を構えた、その瞬間。


足元に、黒い影が広がる。




ズズズ……




地面の下から、何かが伸び上がる。


一本。

また一本。


影が形を変え、鋭く尖る。




槍。


























黒い影の槍が、ベスの足元から一直線に突き上がった。

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