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バル  作者: 隣の猫
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287/417

ミレ



カツン。


乾いた足音が、


静寂を破った。


それは一歩だけ。


たった一歩。


それだけで、


地下神殿に満ちていた沈黙が揺らぐ。




黒い影が動く。


階段の上。


無数の虚無の使徒が、


まるで一つの意思で動くように、


ゆっくりと道を開いた。


左右へ。


音もなく。


一糸乱れぬ動き。


その中央だけが、


最後まで動かなかった。




ガルドは静かに剣を抜く。


キィン……


澄んだ音が、


広間へ長く響く。


その音だけが、


この空間で生きていた。


レオンも大剣を担ぎ直す。


アイラは弓へ矢を番える。


リシアは静かに細身の剣を抜いた。


ノアは猫を抱きしめる。




ベスはゆっくりと息を吐く。


腰の剣へ手を掛ける。


新たな継承者の剣。


蒼白い紋様が、


刀身へ静かに浮かび上がる。


左腕のガントレットも、


小さく震え始めた。




「……。」


何も言わない。


ただ。


前を見る。




左腕へ魔力が集まる。


銀色の装甲。


肩まで広がる白銀。


蒼白い紋様。


そして。


空中へ形を成していく、


巨大な狼の前脚。


フェンリル。




静かな鼓動。


ドクン。


ドクン。




ベスは剣を握る。


ゆっくりと、


その切っ先を前へ向けた。


「――来い。」




その瞬間。


フェンリルが咆哮する。


ウゥォォォォォォォン!!


蒼白い光が地下神殿全体を駆け抜けた。




光は、


黒い外套を包む。


黒い仮面を照らす。


そして。


虚無の使徒たちを覆っていた黒い霧へ触れた。




ズッ……


黒い霧が、


一斉に掻き消える。


一体。


また一体。


さらに一体。


仮面を付けた虚無の使徒たちは、


突然何かを失ったように動きを止めた。


黒い霧は、


もうどこにも現れない。




レオンが目を見開く。


「消えた……!」


アイラも静かに息を呑む。



だが。


ガルドだけは違った。


身体へ纏う灰色の霧が、


ゆっくりと薄れていく。


半分。


また半分。


完全には消えない。


しかし。


力もまた、


半分ほど静かに削がれていく。


ガルドは小さく眉をひそめた。


「……そういうことか。」




広間の最奥。


一段高い場所。


そこに立つ黒い影だけは、


何も変わらなかった。


黒い外套。


黒い仮面。


左腕を覆う黒いガントレット。


黒い霧は纏っていない。


それでも。


その存在感だけは、


一切揺らがない。




蒼白い光が消える。


静寂が戻る。


誰も動かない。


その時だった。


黒い影が、























ゆっくりと一歩だけ前へ出た。

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