ルネア
小さな焚き火が、地下神殿の静寂をやわらかく照らしていた。
崩れた石柱にもたれ、灰鷹は久しぶりに全員で腰を下ろす。包帯を巻く音と、火の爆ぜる音だけが、冷えた空間に落ちていた。
最初に口を開いたのはガルドだった。
「……それぞれ、何があった。」
レオンが頭を掻く。
「俺は地下神殿に落ちて、そのまま上へ蹴り飛ばされて……まあ、何とか勝った。」
ベスが苦笑する。
「その“何とか”が一番気になるんだけど。」
「長い話になる。」レオンは笑ってごまかした。
アイラが続く。
「私は上から援護していました。ようやく風が読めるようになりました。」
目元に残る乾いた血へ触れながら、少しだけ肩をすくめる。
「代償はありますけど。」
「私は……。」
リシアが口を開く。
「狐の加護を授かりました。」
その一言に、全員の視線が集まる。
ガルドが短く頷いた。
「そうか。」
「まだ使いこなせませんけど、少しずつ慣れていきます。」
その瞬間、アイラが「あっ!」と声を上げた。
レオンの肩が跳ねる。
「……やめろ。」
まだ何も言っていないのに、嫌な予感だけが先に来る。
アイラはガルドを見た。
「団長、聞いてください。レオンが――」
レオンが慌てて立ち上がる。
「待て! 言うな!」
だがアイラは止まらない。
「リシアと合流した瞬間、腰から小剣を抜いて、『俺も二刀流だ!』って。」
一拍の沈黙のあと、ベスが吹き出した。
「ぶっ……ははは!」
ノアも肩を揺らす。
「ふふっ。」
リシアは苦笑した。
「あの時は、本当に驚きました。戦っている最中でしたから。」
レオンは顔を赤くして言い返す。
「違う! 試してみたかったんだ!」
「結果、私が怒りました。」アイラはため息をつく。
「当然だ。」
ガルドが腕を組む。
「馬鹿者。」
それだけで十分だった。
レオンは肩を落とす。
「……はい。」
ノアまで小さく腕を組む。
「レオン、めっ。」
「ノアまでかよ……。」
焚き火の周りに、ようやく笑いが戻った。
笑いが落ち着くと、今度はガルドが短く言った。
「俺はクロムと戦った。」
それ以上は語らない。
ベスもそれ以上は聞かなかった。仮面の半分だけが、焚き火の光を受けて静かに光っていた。
ベスも口を開く。
「俺はノアに助けられた。」
ノアは首を傾げる。
「でも、私あんまり覚えてない。」
「それでも、ありがとう。」
ノアは嬉しそうに笑った。
やがて、誰からともなく欠伸が漏れ始める。
レオンが大きく伸びをした。
「もう無理だ……。」
アイラも目を擦る。リシアは座ったまま、今にも眠りそうだった。ベスもフェンリルの反動で身体が重い。ガルドも静かに目を閉じる。
全員、限界だった。
ノアはそっと灰猫の前へ座る。
「ねぇ。」
灰猫が片目を開けた。
「なんじゃ。」
ノアは小さく頭を下げる。
「お願い。みんなを、少しだけ守って。」
灰猫はしばらくノアを見つめ、それから鼻を鳴らした。
「……この半日で、少しは成長しよったか。」
そう呟いて立ち上がる。
「仕方ない。今宵だけじゃ。」
灰猫の足元から淡い光が広がり、透明な結界が焚き火を包んだ。地下神殿の冷たい空気が、静かに遠のいていく。
安心したように、一人、また一人と横になる。
焚き火だけが、静かに揺れていた。




