表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
28/399

アルコル



初任務を終えた翌日。


中央島の空は、珍しく厚い雲に覆われていた。


大きな任務を終えた若い戦士たちは、それぞれ束の間の休息を与えられる。


灰鷹も例外ではなかった。


「たまには肩の力を抜け。」


ガルドの一言で、団員たちは市場へ向かったり、街を見て回ったりと、それぞれの時間を過ごしていた。


ベスは一人、鍛冶街へ足を運んでいた。




鍛冶場では、真っ赤に焼けた鉄を職人たちが何度も打ち続けている。


カン。


カン。


規則正しい音が響く。


ベスはその光景を静かに見つめていた。


「面白いか?」


声を掛けてきたのは、髭を蓄えた老鍛冶師だった。


「はい。」


「剣って、一回で完成するものだと思ってました。」


鍛冶師は豪快に笑う。


「一回でできる剣なんざ、すぐ折れる。」


鉄を叩く。


火へ戻す。


また叩く。


「何度も熱されて。」


「何度も叩かれて。」


「それでも残ったものだけが、本物になる。」


ベスは黙って聞いていた。


その言葉は、どこか自分と重なった。




夕方。


灰鷹は港近くの丘で焚き火を囲んでいた。


珍しく依頼もない。


酒もない。


ただ仲間と食事をするだけの時間。


灰鷹の団員たちの笑い声が、静かな夜へ溶けていく。


レオンは珍しく剣を置いて座っていた。


アイラは焚き火を見つめながら、小さく笑う。


リシアは皆へパンを配っている。


普段は戦場でしか顔を合わせない仲間たちと、


ただ同じ時間を過ごす。


それだけのことが、ベスには少し不思議だった。




しばらくして。


レオンが突然口を開いた。


「なあ。」


「みんな、何のために強くなる?」


少し意外な質問だった。


最初に答えたのはアイラだった。


「私は。」


少し考える。


「もっと遠くを見るため。」


「今より強くなれば、助けられる人が増えると思うから。」


レオンは頷いた。


「俺は、自分の剣がどこまで届くのか知りたい。」


その目には、少年らしい負けず嫌いが宿っていた。


「まだ知らない強いやつが、世界にはいる。」


「だったら、全部見てみたい。」


ベスは少し笑った。




そして。


皆の視線がベスへ向く。


ベスはしばらく黙っていた。


焚き火が小さく揺れる。


「最初は。」


「神様に復讐するためだった。」


誰も口を挟まない。


「両親を奪われたから。」


「村を奪われたから。」


炎を見る。


「世界なんて、どうでもよかった。」


その言葉は昔の自分だった。


「でも。」


仲間たちを見る。


ガルド。


レオン。


アイラ。


リシア。


灰鷹の仲間たち。


「今は違う。」


「誰かが、大切なものを失う瞬間を減らしたい。」


「そのために強くなりたい。」


静かな沈黙。


やがてレオンが笑う。


「やっぱり、お前らしい。」




その夜。


皆が眠った後。


ベスは一人で剣を振っていた。


月明かりの下。


一振り。


また一振り。


汗が落ちる。


「眠らないのか。」


振り返る。


ガルドだった。


「まだ足りない気がします。」


「今日勝てても。」


「明日は負けるかもしれない。」


ガルドは静かに頷く。


「それでいい。」


ベスは顔を上げる。


「え?」


「強さを求める者ほど、自分の未熟さを忘れてはいけない。」


ガルドは空を見る。


「剣の強さ。」


「心の強さ。」


「仲間を信じる強さ。」


「どれか一つだけでは、生き残れん。」


ベスは黙って聞く。


「三つを持つ者だけが、本当の意味で強くなる。」


ガルドは背を向ける。


「焦るな。」


「お前は進んでいる。」




夜明け。


ベスは水平線から昇る朝日を見つめていた。


剣を握る手を見る。


まだ傷だらけ。


まだ未熟。


それでも。


昨日より少しだけ前へ進んでいる。


そう思えた。


しかし。


穏やかな時間は長く続かなかった。


港へ鐘の音が響く。


一度。


二度。


三度。


緊急招集の鐘。


王国兵が叫ぶ。


「全戦士、広場へ集結!」


「中央島北部砦が魔物の群れに襲撃された!」


ベスは剣を握り直す。


レオンが隣へ立つ。


アイラが弓を背負う。


リシアも静かに頷く。


日常は終わった。


灰鷹は再び戦場へ向かう。
























新たな戦いが、彼らを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ