サルティ
地下神殿。
静かな空間へ、
小さな黄金の鷹の声だけが響いていた。
「あの日のことを。」
その言葉を最後に。
長い回想は終わった。
小さな鷹は、
ゆっくりと目を開く。
目の前には、
ベスとノア。
二人は何も言わず、
ただ静かに見守っていた。
しばらくして。
小さな鷹が頭を下げる。
「ありがとうございました。」
ベスは少し驚く。
「何がだ。」
小さな鷹は顔を上げた。
「助けてくれたことです。」
「僕をあの場所から連れ出してくれたこと。」
「そして。」
少しだけ間を置く。
「父さんと母さんのことを教えてくれたこと。」
ベスは静かに頷く。
「礼を言う必要はない。」
「助けたいと思ったから助けた。」
ノアも優しく笑う。
「無事でよかった。」
「本当に。」
小さな鷹は、
しばらく二人を見る。
そして。
小さく翼を広げた。
「僕。」
「行きます。」
ノアが少しだけ寂しそうにする。
「もう行くの?」
小さな鷹は頷いた。
「はい。」
「父さんと母さんに会いたいです。」
ベスは静かに笑う。
「そうだな。」
「会ってこい。」
小さな鷹は頷く。
その瞳には、
もう迷いはなかった。
出口へ向かう前。
小さな鷹は一度だけ振り返る。
「ベスさん。」
「ノアさん。」
二人を見る。
「気を付けてください。」
ベスは首を傾げる。
「何に?」
小さな鷹は、
少しだけ不安そうに空を見る。
「……黒い影に。」
「まだ。」
「終わっていない気がします。」
その言葉を残し。
小さな黄金の翼が広がる。
地下神殿の出口へ向かって飛び立つ。
親の元へ。
ベスは、
遠ざかっていく姿を静かに見送った。
黒い影。
その言葉が胸に残る。
思い出す。
虚無の使徒が最後に残した言葉。
『我らの盟主が待っている。』
黄金の鷹を圧倒した存在。
守護獣ですら届かなかった力。
そして。
自分自身も、
あの時はノアを守ることで精一杯だった。
だが。
ベスは拳を握る。
恐れるだけでは終わらない。
もう分かっている。
強敵ほど。
その力を知った上で、
前へ進むしかない。
「ベス。」
ノアの声。
振り返る。
小さな少女が、
いつものように真っ直ぐ見ていた。
「行こう。」
「ああ。」
二人は神殿の奥へ歩き出す。
黒い影の先にあるもの。
虚無の盟主。
そして。
この世界の真実へ向かって。




