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バル  作者: 隣の猫
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ラグネ



黒い霧が一点へ集まる。


形を変える。


その力が向けられた先。


母だった。




幼い鷹には、


何が起きているのか分からなかった。


ただ。


父が動いた。


黄金の翼が大きく広がる。


次の瞬間。


父は母の前へ飛び込んでいた。




ドォォォン!!


黒い力が翼へ衝突する。


空気が震える。


山全体が揺れたように感じた。


父の身体が大きく弾かれる。


それでも。


翼は閉じなかった。


母を守るように、


その前へ立ち続ける。




「父さん!」


幼い鷹が叫ぶ。


声が届かない。


風が強すぎる。


黒い霧が周囲を覆っていく。




父は傷付いていた。


黄金の羽が舞う。


呼吸も荒い。


それでも。


立っていた。




母もまた、


父の隣へ並ぶ。


二羽の黄金の翼。


その姿は、


幼い鷹にとって世界で一番強いものだった。




虚無の使徒たちが動く。


魔物の群れが押し寄せる。


だが。


親鷹は退かない。




父の翼が風を起こす。


魔物が吹き飛ぶ。


母の爪が黒い影を切り裂く。


虚無の使徒の黒い霧すら、


黄金の風に押し返される。




それでも。


黒い影の存在だけは、


動かなかった。


ただ静かに見ていた。




父と母は強い。


誰よりも強い。


幼い鷹はそう信じていた。




しかし。


数え切れないほどの敵が、


少しずつ二羽を追い詰めていく。




「逃げなさい。」


母の声。


初めて聞く、


震えた声だった。




父が振り返る。


「飛べ。」


短い言葉。


「お前は生きろ。」




幼い鷹は首を振る。


嫌だった。


離れたくなかった。




その瞬間。


黒い影が動いた。




黒い霧が伸びる。


身体が動かない。


翼が動かない。


声も出ない。




父が飛ぶ。


母が叫ぶ。


でも。


届かない。




小さな身体が、


黒い霧に包まれる。


遠ざかっていく。




最後に見えた。


父の翼。


母の姿。


二羽が必死にこちらへ向かおうとしている姿。




父は何かを叫んでいた。


母も何かを伝えていた。




でも。


声は届かなかった。




そして。


幼い鷹の意識は、
























黒い闇へ沈んでいった。

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