アルヴィアス
地下神殿。
静かな光が、ゆっくりと消えていく。
黒い霧はもう残っていなかった。
残されたのは、
崩れた石床と、
穏やかな空気だけだった。
小さな黄金の鷹が、
ゆっくりと目を開く。
身体はまだ弱っている。
翼も僅かに震えていた。
それでも。
その瞳には、
確かな光が戻っていた。
ノアがそっと近付く。
「大丈夫?」
鷹は小さく頷く。
「……はい。」
その声に、
ベスは少し驚いた。
「話せるのか。」
鷹は静かに答える。
鷹はゆっくりとベスを見る。
「あなたが。」
「私を助けてくれたのですね。」
ベスは首を振る。
「俺だけじゃない。」
視線をノアへ向ける。
「ノアがいた。」
ノアは少し困ったように笑う。
「えっと……。」
「私、何をしたのか覚えてなくて。」
その言葉に、
ベスは少しだけ目を細めた。
だが。
今は何も言わなかった。
鷹は静かに翼を動かす。
そして。
小さな声で尋ねた。
「父と母は……。」
一瞬。
その場の空気が止まる。
ベスは迷わず答えた。
「生きている。」
鷹の瞳が大きく開く。
「……本当に?」
「ああ。」
「お前を待っている。」
小さな身体が震える。
長い間。
心の奥に残っていた不安。
それが少しずつほどけていく。
「……よかった。」
しかし。
その表情はすぐに曇った。
「なら……。」
「どうして。」
「どうして助けに来てくれなかったんですか。」
ノアが静かに息を呑む。
ベスは黙って鷹を見る。
そこにあるのは責める感情ではない。
ただ。
幼い守護獣が抱えてきた疑問だった。
ベスは胸元から、
一枚の黄金の羽を取り出す。
風を受けるように、
淡い光を纏っていた。
「これを。」
鷹は目を見開く。
「……母の羽。」
小さく呟く。
ベスは羽を差し出す。
「お前の母親から預かった。」
「お前を導くために。」
鷹は震える嘴で、
そっと羽へ触れる。
その瞬間。
淡い光が広がった。
音はない。
映像もない。
ただ。
温かな想いだけが伝わる。
傷ついた父。
守るべき遺跡。
離れることのできない場所。
それでも。
遠く離れた子を想う気持ち。
鷹の瞳から、
小さな涙が落ちる。
「……。」
ベスは静かに言う。
「来なかったんじゃない。」
「来られなかったんだ。」
「父親は傷ついていた。」
「それでも。」
「オアシスの遺跡を守らなければならなかった。」
「封印を維持する役目があった。」
鷹は羽を見つめる。
自分は。
ずっと間違えていた。
置いていかれたと思っていた。
でも。
違った。
父も母も。
最後まで自分を想っていた。
しばらくの沈黙。
やがて。
鷹は静かに顔を上げる。
「……。」
「僕は。」
「ずっと勘違いしていました。」
小さな翼が、
ゆっくりと広がる。
「僕には。」
「話さなければならないことがあります。」
ベスとノアは黙って聞く。
鷹は静かに目を閉じる。
そして。
小さく呟いた。
「……あの日のことを。」




