ノクレア
地下神殿。
時間が戻る。
迫る黄金の翼。
暴れる黒い霧。
崩れ落ちる石柱。
全てが一瞬で動き始めた。
ベスは静かに剣を構える。
左腕。
白銀のガントレット。
蒼白い紋様。
そして。
手にした剣。
ノアはその場に立っていた。
しかし。
いつものノアではない。
蒼白い髪。
静かな瞳。
小さな身体に、
大きすぎる力が宿っている。
黄金の鷹が咆哮する。
黒い霧が広がる。
その力は、
かつて守護獣だった存在を苦しめ続けたもの。
ベスは踏み込まない。
剣を振らない。
ただ。
静かに見つめる。
倒す敵ではない。
救うべき存在。
その瞬間。
左腕のフェンリルが淡く光る。
剣へ流れる蒼白い光。
ベスは剣を握る。
力を込める。
だが。
振り下ろさない。
「……。」
一歩。
前へ出る。
黄金の翼が迫る。
黒い霧が牙のように襲い掛かる。
ベスは剣を前へ向けた。
蒼白い光が広がる。
触れた黒い霧が、
音もなく消えていく。
爆発ではない。
破壊でもない。
ただ。
そこにある歪みだけが、
静かに消えていく。
黄金の鷹の動きが止まる。
黒い霧が薄れていく。
「……。」
鷹の黄金の瞳が、
ゆっくりとベスを見る。
苦しみの奥にあった本来の光。
それが、
少しずつ戻っていく。
ベスは剣を下ろす。
「大丈夫だ。」
「もう。」
「終わらせる。」
その声に反応するように、
蒼白い光がさらに広がった。
地下神殿を覆っていた黒い霧。
残された虚無の力。
全てが、
少しずつ消えていく。
その時。
ノアの身体がふらりと揺れた。
「……。」
ベスが振り返る。
蒼白い髪が、
少しずつ元へ戻っていく。
静かな瞳から、
いつもの色が戻る。
「……ベス?」
小さな声。
いつものノアだった。
「私……。」
「何か……してた?」
ベスは少しだけ笑う。
「助けてくれた。」
ノアは不思議そうに首を傾げる。
でも。
安心したように笑った。
黄金の鷹は、
静かに翼を下ろす。
地下神殿には、
もう黒い霧は残っていなかった。




