レニアン
地下神殿は震え続けていた。
黄金の翼が広がるたび、
空気が震える。
石柱が砕け、
床へ亀裂が走る。
ベスは左腕へ力を込める。
銀色の巨大な前脚。
フェンリル。
それは二人を守り続けていた。
黄金の衝撃を受け止める。
落ちてくる瓦礫を防ぐ。
黒い霧を押し返す。
全ては、
ノアとベスを守るため。
しかし。
「……。」
ベスは気付いていた。
フェンリルは守ることを優先している。
だから。
自分は前へ出られない。
攻撃へ転じようとしても、
巨大な前脚がノアを庇う位置へ動く。
まるで、
「今は守れ」
そう言われているようだった。
ギィィィィィン!!
黄金の爪が前脚へ叩き付けられる。
衝撃。
ベスの身体が後ろへ押される。
「っ……。」
足元が滑る。
傷が痛む。
フェンリルの力を使った反動も残っている。
それでも。
ベスは立ち続ける。
「ベス。」
小さな声。
振り返る。
ノアがいた。
その顔には不安が浮かんでいる。
でも。
逃げようとはしていない。
「大丈夫か?」
ベスが聞く。
ノアは頷こうとして、
少しだけ迷った。
「……うん。」
でも。
視線はベスの傷へ向いていた。
左腕。
肩。
身体に残った傷。
ノアには分かっていた。
ベスは無理をしている。
いつもそうだった。
大丈夫と言う。
平気だと言う。
でも。
本当は痛い。
本当は苦しい。
「ベス。」
「ん?」
「私……。」
ノアは小さな手を握る。
「何もできないのかな。」
その言葉に、
ベスは目を見開く。
「ノア。」
「違う。」
「ノアがいるから、俺は戦えてる。」
ノアは首を横に振る。
「でも。」
「いつも。」
「みんながベスを助けてる。」
「リシアも。」
「レオンも。」
「アイラも。」
「団長さんも。」
小さな声。
「私も助けたい……。」
黄金の翼が再び広がる。
ドォォォン!!
フェンリルの前脚が受け止める。
地下神殿が大きく揺れる。
その衝撃で、
ベスの膝がわずかに沈んだ。
「……っ。」
ノアは息を呑む。
その瞬間。
胸の奥で、
何かが動いた。
守られている。
ずっと。
誰かに。
でも。
本当にそれだけでいいのか。
ノアは目を閉じる。
旅の中で見たもの。
優しく笑う仲間たち。
傷付いても立ち上がる姿。
そして。
途中で見た、古い壁画。
壁一面に刻まれていた。
巨大な獣。
その隣に立つ人間。
そして。
その二つの存在の間にいる、
小さな少女。
ノアはゆっくり目を開く。
今なら少しだけ分かる気がした。
あの少女は、
何をしていたのだろう。
でも。
答えはまだ出ない。
「ベス。」
「なに?」
ノアは顔を上げる。
小さな身体。
震える声。
それでも。
目だけは真っ直ぐだった。
「私にも。」
「できること、あるかな。」
ベスは黙る。
そして。
小さく笑った。
「……あると思う。」
その言葉に、
ノアも少しだけ笑う。
その瞬間。
ノアの身体から、
淡い光が一瞬だけ漏れた。
「……?」
本人も驚く。
何かが目覚めようとしている。
頭の奥が熱い。
知らない言葉が浮かぶ。
知らない感覚が広がる。
それでも。
ノアは一歩進んだ。
「ベス。」
「少しだけ。」
「触ってもいい?」
ベスは驚く。
視線は、
左腕のガントレットへ向いていた。
フェンリル。
ベスは静かに腕を差し出す。
ノアの小さな手が、
ゆっくりとガントレットへ近付く。
指先が触れる。
その瞬間。
蒼白い光が、
二人を包み込んだ。




