アル
ギィィィィィィッ――!!
幼い鷹が叫ぶ。
その声と同時に、黄金の翼が大きく広がった。
ドォォォォォン!!
地下神殿を揺るがす衝撃が一直線に走る。
床が砕ける。
石柱が吹き飛ぶ。
崩れた天井から巨大な岩塊が降り注いだ。
「ノア!」
ベスは反射的に前へ出る。
剣へ手を掛ける。
その瞬間だった。
左腕が焼けるように熱を帯びる。
「……っ!」
考えるより早い。
剣を抜くより早く、
銀色の魔力が左腕から溢れ出した。
肩まで白銀の装甲が駆け上がる。
蒼白い紋様が浮かび、
巨大な狼の前脚が二人を包み込むように顕現した。
ドォォォォォン!!
黄金の衝撃と銀色の前脚が激突する。
地下神殿全体が悲鳴を上げた。
ベスは息を呑む。
フェンリルを呼んだ覚えはない。
それでも巨大な前脚は微動だにせず、ノアを抱き寄せるように前へ突き出されていた。
ギィィィィィッ!!
幼い鷹が再び咆哮する。
黄金の姿が消えた。
「どこだ!」
右。
違う。
左。
背後。
見えない。
次の瞬間。
バギィィィン!!
黄金の爪がフェンリルの前脚へ叩き付けられる。
衝撃だけで石床が弾け飛んだ。
ベスの身体ごと後ろへ押し込まれる。
「くっ!」
踏み止まる。
しかし止まらない。
黄金の翼が一振りされるたび、
地下神殿が壊れていく。
柱が折れる。
壁が裂ける。
床が崩れ落ちる。
フェンリルの前脚は守り続ける。
それでも押される。
また押される。
ベスは一歩踏み出す。
近付かなければ。
止めなければ。
もう一歩。
その瞬間。
黄金の翼が目の前で広がった。
轟ッ!!
凄まじい衝撃が叩き付けられる。
フェンリルの前脚が受け止める。
だが、
ベスは前へ出られない。
一歩も。
近付けない。
ギィィィィィィッ!!
幼い鷹はなお叫び続ける。
暴れるたびに地下神殿が震える。
砕ける。
崩れる。
その姿は守護獣ではなかった。
長い苦しみを吐き出す災厄そのものだった。
ベスは歯を食いしばる。
「……止まれ。」
声は届かない。
黄金の翼は止まらない。
フェンリルが守っている。
それでも。
何一つ、止められなかった。




