ルクサ
「……。」
淡い光が揺れている。
暖かな光。
それが身体を包んでいる感覚で、
ベスの意識はゆっくりと浮かび上がった。
「……ん。」
重い瞼を開く。
最初に見えたのは、
小さな手だった。
そして。
必死な表情で治療魔法を使うノアの姿。
「……ベス?」
声が震える。
ベスはゆっくり瞬きをした。
「ノア……。」
その瞬間。
ノアの目から涙が溢れた。
「よかった……。」
「本当に……よかった……。」
小さな身体が、そのままベスへ抱きつく。
「ベス、全然起きなくて……。」
「怖かった……。」
ベスは少し驚いた。
けれど。
すぐに優しくノアの頭へ手を置く。
「ごめんな。」
「心配させた。」
ノアは何度も首を振る。
「ううん……。」
「ベスが守ってくれたから。」
その言葉に。
ベスは少しだけ笑った。
「そっか。」
「ありがとう。」
ノアも顔を上げる。
「私こそ……。」
「助けてもらったから。」
ベスはゆっくりと周囲を見る。
崩れた石柱。
散らばった瓦礫。
薄暗い地下空間。
ここが神殿の中だということは分かった。
だが。
他の気配がない。
「……。」
胸の奥が少しざわつく。
「ノア。」
「うん?」
「団長は?」
「レオンやアイラ、リシアは?」
ノアの表情が少し曇る。
小さく俯いた。
「……分からない。」
「気付いたら……。」
「ベスしかいなかった。」
その声が震える。
「みんな……。」
「大丈夫かな……。」
また泣きそうになるノア。
ベスは慌てて身体を起こそうとした。
「探しに――」
「ダメ!」
ノアの声が響く。
ベスの動きが止まる。
「怪我人は動いたらダメ!」
真剣な顔。
小さな手でベスの肩を押さえる。
ベスは目を丸くした。
そして。
小さく笑った。
「……分かった。」
「そんな顔するなよ。」
ノアは少しだけ頬を膨らませる。
「だって。」
「ベス、いつも無茶するから。」
その言葉に。
ベスは困ったように笑った。
しばらくして。
ノアはもう一度、ベスの傷を確認する。
「まだ痛い?」
「ああ。」
「でも大丈夫。」
ノアは少し怒った顔になる。
「大丈夫って言う人ほど、大丈夫じゃないんだよ。」
その言葉に。
ベスは思わず笑った。
「誰に教わったんだ?」
ノアは少し考える。
「……みんな。」
「みんな、ベスのこと心配してるから。」
ベスは静かに目を伏せる。
胸の奥が温かくなる。
身体はまだ重い。
フェンリルを使った疲労も残っている。
だが。
動けないわけではない。
ベスはゆっくり立ち上がった。
「行こう。」
ノアが顔を上げる。
「探すの?」
「ああ。」
「団長たちを探す。」
そして。
少しだけ間を置く。
「それに。」
「ここで困ってる人がいるなら、助けたい。」
ノアは小さく頷いた。
「うん。」
ベスは手を差し出す。
ノアはその手を握る。
小さな手。
けれど。
確かな温かさがあった。
ベスは歩き出す。
(団長なら大丈夫だ。)
(レオンも。)
(アイラも。)
(リシアも。)
簡単に倒れるような人たちじゃない。
そう信じている。
だからこそ。
早く合流しなければならない。
今の自分には、
守るべきものがある。
ベスは隣を歩くノアを見る。
まだ七歳の小さな女の子。
それでも。
自分を助けてくれた。
怖いはずなのに、
一人でここまで頑張っていた。
「ノア。」
「なに?」
「無理するなよ。」
ノアは少し笑う。
「ベスもね。」
二人は顔を見合わせる。
そして。
小さく笑った。
崩れた地下神殿の奥へ。
二人は並んで歩き始めた。




