ルセリアン
地下神殿は静まり返っていた。
互いに剣を構えたまま、
ガルドとクロムは動かない。
その静寂を破ったのは、
ガルドだった。
ゆっくりと。
深く息を吸う。
「……来い。」
静かな一言。
その瞬間だった。
黒い霧が一気に溢れ出す。
足元から立ち昇った灰色の霧が、
ガルドの身体へ静かに絡み付いていく。
腕。
肩。
胸。
首。
やがて全身を包み込み、
髪が灰色へ染まり始めた。
瞳もまた、
静かな灰色へ変わっていく。
剣を握る右腕へ霧がまとわり付き、
刃全体が淡い灰色の輝きを帯びた。
ガルドはゆっくりと目を開く。
景色が変わる。
落ちる砂粒。
揺れる霧。
流れる空気。
全てが、
ゆっくり見えた。
いや。
自分が速くなっていた。
床を蹴る。
姿が消える。
次の瞬間には、
クロムの目前。
振り下ろされた灰色の刃。
クロムは受ける。
しかし。
今までとは違う。
受け止めた瞬間、
剣へまとわり付いた灰色の霧が爆ぜた。
目には見えない剣圧が一直線に走る。
クロムの背後。
黒い石柱の表面へ一本の深い傷が刻まれる。
地下神殿全体へ重い衝撃音が響いた。
石柱は砕けない。
床も崩れない。
だが。
空気そのものが震えていた。
クロムは初めて一歩だけ後退する。
黒い外套がゆっくりと揺れた。
次の瞬間。
無数の影がクロムの足元から溢れ出す。
一本。
二本。
十本。
数え切れない影が床を這い、
地下神殿全体へ広がっていく。
影は柱を駆け上がり、
壁を走り、
天井までも覆い始めた。
影が動くたび、
地下神殿へ低い唸りが響く。
封印を守る神殿は耐えている。
だが、
人外同士の力は、
確かにこの空間へ爪痕を刻み始めていた。
ガルドは灰色の刃を静かに構える。
クロムも無数の影を従え、
剣を構え直す。
もう、
人の剣ではない。
灰色の亡霊。
虚無の影。
地下神殿最深部で、
二人の人外が再び激突した。




