ルミナウス
地下神殿に静寂が満ちる。
その静けさを切り裂くように、二つの影が同時に床を蹴った。
距離が消える。
次の瞬間。
二本の剣が激突した。
重く鋭い衝撃音が地下神殿いっぱいへ響き渡り、高い天井と黒い石壁が何度もその音を返す。
刃が離れる。
離れたと思った瞬間には、再び交わる。
休む間など、一瞬もない。
ガルドは低く踏み込む。
剣を真正面からぶつけない。
僅かに角度を変え、相手の剣を滑らせる。
流れた先へ身体を送り込む。
最短の一太刀。
しかし。
黒い刃は、その軌道へ自然と現れた。
受ける。
弾く。
流す。
一連の動作に迷いはない。
ガルドは身体を捻り、そのまま逆袈裟へ繋げる。
クロムは半歩だけ軸をずらす。
刃先が外套を掠める。
届かない。
二人は同時に距離を取る。
呼吸は乱れない。
視線だけが相手を追い続ける。
一瞬。
互いの足が動く。
踏み込みは同時。
刃も同時。
再び地下神殿へ重い衝撃音が響いた。
ガルドは剣を返す。
斬り上げる。
途中で止める。
軌道を変える。
さらに踏み込む。
普通の剣士なら反応できない。
だが。
黒い刃は、常にそこにあった。
一歩先。
半歩内側。
最も通したい剣筋だけを塞いでくる。
ガルドは止まらない。
横薙ぎ。
突き。
切り返し。
身体全体を使い、絶え間なく剣を繋げていく。
その全てを、クロムは最小限の動きだけで受け流した。
一瞬。
ガルドの身体が沈む。
右足へ重心。
そこから爆発するように踏み込む。
剣は振らない。
まず肩を入れる。
相手の体勢を崩す。
その瞬間を狙う。
だが。
クロムは肩が触れる寸前に半身を外し、ガルドの横へ滑る。
黒い刃が静かに走る。
ガルドは首を引く。
刃先が鼻先を掠め、数本の髪だけが宙を舞った。
床を蹴る音。
衣擦れ。
呼吸。
そして、剣がぶつかる重い衝撃音。
地下神殿に響く音は、それだけだった。
言葉は一つもない。
二人にとって必要なのは剣だけだった。
ガルドは攻め続ける。
剣を止めない。
間合いを変える。
歩幅を変える。
呼吸を変える。
それでも。
あと半歩。
その半歩だけが、どうしても届かない。
黒い刃は、必ずそこへ現れる。
クロムは追わない。
退かない。
ただ。
ガルドが最も通したい剣筋へ、自分の剣を置き続ける。
受けるたびに衝撃音が響く。
地下神殿は静かなまま、その音だけを何度も反響させていた。
少し離れた石柱の上。
灰猫は前脚を揃えたまま静かに座っている。
目を細め、
ただ黙って二人の剣を見つめ続けていた。
互いに距離が開く。
ほんの一呼吸。
その静寂も長くは続かない。
再び二人は床を蹴る。
地下神殿へ、新たな衝撃音が響き渡った。




