プルメリア
ズズズズズ……
黒い霧が地下神殿を覆う。
仮面の亀裂から無理やり溢れ出した人外の力。
本来なら制御されるはずの力は、
今や暴れ狂う獣のように虚無の使徒の身体へ絡み付いていた。
それでも。
虚無の使徒は止まらない。
「終。」
静かな声。
次の瞬間。
地下神殿の床が砕けた。
一直線。
リシアへ。
「っ!」
細身の氷剣で受ける。
重い。
流せない。
氷の床も。
舞う足も。
もう限界だった。
加護が悲鳴を上げる。
腕が震える。
膝が沈む。
(ここまで……。)
そう思った、その瞬間だった。
「リシアァァ!!」
レオンの声が響く。
ガギィィィン!!
大剣が横から叩き込まれる。
虚無の使徒の黒い刃が僅かに逸れた。
「押し留める!!」
レオンは全身で押す。
一歩。
また一歩。
地面が軋む。
虚無の使徒は押し返そうとする。
その瞬間。
ヒュンッ!!
一本の矢が風を裂いた。
アイラだった。
狙うのは身体じゃない。
黒い霧。
仮面。
人外の力が最も不安定になる一点。
矢は紙一重でその脇を抜ける。
虚無の使徒は反射的に避ける。
その動きが。
レオンの押し留める力をさらに強くした。
「今だ!!」
リシアは静かに息を吸う。
残った力。
残った魔力。
全てを両手へ集める。
白銀の光。
二本の氷剣が一つになる。
巨大な氷の刃。
そのまま地面へ突き立てた。
パキィィィィィン!!
氷が一瞬で広がる。
地下神殿の床。
壁。
柱。
全てを包み込むように白銀が走る。
虚無の使徒の足元までも凍り付いた。
「終わりです。」
リシアが静かに呟く。
その瞬間。
暴走していた黒い霧が、
氷へ触れた。
ズズズズズッ!!
制御を失った人外の力が一気に暴れ始める。
虚無の使徒自身が押さえ込もうとする。
だが。
もう遅い。
黒い霧は仮面の亀裂から溢れ続け、
やがて自らを飲み込んでいった。
地下神殿が大きく揺れる。
崩れる。
「伏せろ!!」
レオンが叫ぶ。
次の瞬間。
リシアは最後の力を振り絞る。
氷が三人の前へ大きく広がる。
巨大な氷壁。
崩れ落ちる瓦礫。
暴走する黒い霧。
その全てを受け止めた。
轟音。
白い世界。
やがて静寂。
氷がゆっくりと砕け落ちる。
レオンが顔を上げた。
「リシア!」
アイラも駆け寄る。
氷壁の前。
リシアは静かに立っていた。
そのまま。
ふらりと前へ倒れる。
レオンが慌てて抱き留める。
「おい!」
返事はない。
呼吸はしている。
ただ。
加護を使い切った代償で、
静かに意識を失っていた。
地下神殿には、
三人だけが生き残っていた。




