フェクダ
模擬戦が終わった翌日。
中央島の訓練場には、朝早くから多くの若い戦士たちが集まっていた。
勝者も敗者も関係ない。
誰もが自分の限界を知るため、剣を振り続けている。
その中で。
ベスも木剣を握り、一人で素振りをしていた。
昨日。
アイラには勝った。
だが。
胸に残っていたのは喜びではない。
「あの時。」
「一歩遅れていたら……。」
負けていた。
中央島へ来てから思い知らされる。
世界は広い。
自分より強い人間はいくらでもいる。
「朝から暗い顔だな。」
振り返る。
そこにはレオンがいた。
木剣を肩に担ぎ、少し不満そうな顔をしている。
「昨日の勝者とは思えないな。」
ベスは苦笑する。
「勝った感じがしない。」
「なんだそれ。」
レオンは呆れたように息を吐く。
「普通はもっと喜ぶだろ。」
「勝ったんだから。」
「でも。」
ベスは木剣を見る。
「次は負けるかもしれない。」
その言葉に、レオンは少し黙った。
そして。
小さく笑う。
「やっぱり変な奴だな。」
レオンは木剣を構える。
「付き合え。」
「え?」
「稽古。」
「昨日の試合見てたら、少し気になった。」
「お前がどれくらいなのか。」
少し挑発するような笑み。
「俺が勝ったら、もう少し自信持て。」
「俺が負けたら……。」
少し考える。
「……その時考える。」
ベスは思わず笑った。
「なんだそれ。」
「いいから来い。」
二人は向かい合う。
先に動いたのはベスだった。
低く踏み込む。
右手の木剣。
左腕の獣爪。
レオンはすぐに反応する。
木剣で受け流す。
そのまま距離を取る。
「なるほど。」
「噂通りだな。」
ベスは踏み込む。
だが。
届かない。
レオンは速い。
剣の動きも。
足運びも。
無駄がない。
「お前さ。」
戦いながらレオンが言う。
「なんでそんな無茶な戦い方するんだ?」
「無茶?」
「左腕の爪。」
「普通は片手だけで十分だろ。」
ベスは答える。
「必要だから。」
「守るために。」
レオンは眉を動かす。
「守るため……。」
少しだけ考える。
その瞬間。
ベスが踏み込む。
レオンは慌てて受ける。
「おい!」
「話してる途中だろ!」
ベスは首を傾げる。
「戦闘中だから。」
「普通そうだろ。」
レオンは思わず笑った。
十分ほど。
最後。
二人の木剣がぶつかる。
キィン!!
次の瞬間。
レオンの木剣がベスの喉元で止まった。
勝負あり。
ベスは悔しそうに息を吐く。
「まだ届かない。」
レオンは木剣を下ろす。
「……。」
「お前。」
「本当に悔しそうだな。」
「当たり前だ。」
その返事に、レオンは少し笑う。
「そこはいいと思う。」
ベスを見る。
「俺も負けるの嫌いだからな。」
「昨日だって。」
「アイラに負けたら絶対悔しかった。」
少し子供っぽく言う。
「まあ、勝ったけど。」
ベスは苦笑した。
その日の午後。
中央島の市場。
灰鷹は街を歩いていた。
ベス。
レオン。
アイラ。
リシア。
少し離れた場所にはガルドとボルグ。
その時。
突然、悲鳴が響く。
「盗人!」
一人の少年が走っていく。
後ろから老婦人が叫ぶ。
「薬を返して!」
ベスはすぐに走り出した。
少年を捕まえる。
「離せ!」
「母ちゃんが死ぬんだ!」
その言葉で、
ベスの手が止まる。
袋の中には高価な薬草。
事情を聞く。
少年の母が病気。
薬を買う金がなかった。
だから盗んだ。
レオンは腕を組む。
「……。」
「理由があっても盗みは盗みだろ。」
ベスは頷く。
「そうだ。」
「でも。」
「助ける方法はある。」
自分の報酬金を取り出す。
「これで薬を買って。」
老婦人へ渡す。
少年は泣きながら頭を下げた。
「ごめんなさい。」
帰り道。
レオンは不思議そうにベスを見る。
「お前さ。」
「甘いよな。」
ベスは笑う。
「そうかも。」
「でも。」
「守れるものを見捨てたくない。」
レオンは少し黙る。
そして。
「……やっぱり変な奴。」
「でも。」
「嫌いじゃない。」
ベスは笑った。
少し離れた場所。
ガルドはその様子を見ていた。
ボルグが笑う。
「面白い奴らですね。」
ガルドは静かに頷く。
「ああ。」
「まだ未熟だ。」
「だが。」
「だからこそ伸びる。」
夜。
中央島王城。
一通の報告書が開かれる。
『白霧の神殿、再び反応あり』
王は静かに目を細めた。
「……時が来るか。」
新たな運命が、
静かに動き始めていた。




