メラク
船がゆっくりと中央島の港へ接岸する。
潮風に乗って、聞き慣れない言葉が飛び交う。
四つの大陸から集まった人々。
重厚な鎧を身にまとった騎士。
色鮮やかな衣を纏う商人。
巨大な斧を背負った傭兵。
それぞれが違う文化を背負いながら、
同じ港を歩いていた。
ベスは目を輝かせる。
「こんな世界があったんだ……。」
ガルドは小さく笑う。
「ここは始まりに過ぎん。」
「世界はもっと広い。」
⸻
灰鷹は王国側の案内を受け、中央広場近くの施設へ向かった。
四大陸から集まった戦士たちが集う場所。
そこでは様々な部隊が活動していた。
「ここが中央島の中枢です。」
案内役の兵士が説明する。
「各大陸の騎士団や傭兵団が情報を共有しています。」
ベスは周囲を見る。
知らない武器。
知らない鎧。
知らない戦い方。
世界の広さを、改めて感じていた。
⸻
その時。
「団長。」
静かな声が響いた。
振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
背中には弓。
腰には短剣。
旅装は少し汚れている。
長い偵察任務から戻ったばかりなのだろう。
「戻ったか。」
ガルドが頷く。
少女は一礼した。
「偵察任務、完了しました。」
「報告します。」
ガルドは頷く。
「聞こう。」
少女は地図を広げた。
「中央島北側の街道。」
「魔物の大きな移動は確認できませんでした。」
「ただ。」
少しだけ表情が変わる。
「最近、魔物の動きが変です。」
「何かに追われているような動きをしています。」
ガルドは静かに地図を見る。
「他には。」
「ありません。」
「ですが。」
少女は続けた。
「見落としがないとは言えません。」
「だから戻ってきました。」
その言葉に、ガルドは小さく頷いた。
「ご苦労だった。」
⸻
ベスはその少女を見る。
「弓使い?」
少女は振り返る。
「そう。」
短い返事。
だが嫌な感じはしなかった。
「私はアイラ。」
「灰鷹所属。」
ベスも頭を下げる。
「ベス。」
「よろしく。」
アイラは少しだけ目を細めた。
「噂の人。」
「グランベアを倒したって聞いた。」
ベスは苦笑する。
「俺一人じゃない。」
「みんなで倒した。」
アイラは少し驚いた顔をする。
「ふーん。」
「変わってるね。」
⸻
数日後。
中央島では若い戦士たちの実力を見るため、模擬戦が行われた。
順位を決めるものではない。
互いの力を知るためのもの。
闘技場。
名前が呼ばれる。
「ベス・灰鷹。」
そして。
「アイラ・灰鷹。」
観客がざわめく。
「灰鷹同士か。」
二人が舞台へ上がる。
アイラは静かに弓を構えた。
ベスは剣を抜く。
「始め!」
⸻
最初の一射。
速い。
ベスは反射的に身体を動かす。
矢が頬を掠めた。
「……。」
アイラは表情を変えない。
二射目。
今度は足元。
三射目。
進む先。
ベスは距離を詰められない。
「なるほど。」
ベスは理解する。
アイラは狙っている。
自分ではない。
自分が逃げる場所を。
⸻
だが。
アイラも気付く。
普通なら避けられない距離。
それでもベスは、
獣のように身体を動かしている。
一歩。
二歩。
少しずつ近付いてくる。
「近い。」
アイラが呟く。
最後の一射。
放つ。
その瞬間。
ベスは半歩だけ身体をずらした。
矢を避ける。
そのまま踏み込む。
剣先が止まる。
アイラの首元。
「……負けた。」
アイラは素直に認めた。
⸻
審判が手を上げる。
「勝者、ベス!」
歓声が上がる。
だが。
ベスは油断していなかった。
「もし森だったら。」
「俺が近付く前に負けてた。」
アイラは少しだけ笑う。
「あなた。」
「戦いながら覚えてるんだね。」
ベスは首を傾げる。
「え?」
「何でもない。」
アイラは弓を背負った。
「次は負けない。」
「ああ。」
ベスも笑った。
⸻
遠くから、その様子を見ていたガルドは静かに目を細める。
レオン。
アイラ。
そしてベス。
それぞれ違う戦い方。
違う強さ。
それでも。
同じ場所へ向かう仲間だった。




