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バル  作者: 隣の猫
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245/424

リア



ズズズ……


黒い霧が仮面のヒビから溢れ出す。


地下神殿の空気が一変した。


冷たい圧力が辺りを包み込み、


石床へ落ちていた砂粒までもが静かに震える。


人外の力。




だが。


アイラは逃げない。


弓を引いたまま、


ただ仮面だけを見つめ続ける。


(そこ。)


黒い霧が広がる。


仮面のヒビがわずかに開く。


ほんの一瞬。


本当に紙一重。


その変化だけを、


アイラは見逃さなかった。




虚無の使徒が踏み込む。


今までとは比べものにならない速度。


黒い霧が風を裂き、


一直線にアイラへ迫る。


普通なら。


もう避けられない。


それでもアイラは動かない。


いや。


動く必要がなかった。




ヒュンッ!!


一本の矢が放たれる。


虚無の使徒は避けない。


黒い霧で飲み込む。


その判断は正しい。


今までなら。


ズズッ……


黒い霧が矢へ絡み付く。


その瞬間。


アイラの口元が僅かに動いた。


「そこ。」




一本目は囮。


本命は、


その後ろ。


風へ完全に溶け込んでいた二本目の矢。


黒い霧へ意識を向けた、その一瞬。


風だけを辿る矢が、


音もなく軌道を変える。


虚無の使徒が初めて目を見開いた。


「……!」


もう遅い。


矢は身体ではない。


剣でもない。


黒い霧でもない。


仮面のヒビだけを一直線に射抜いていた。


パキィィン!!


乾いた音が地下神殿へ響く。


仮面へ、新たな亀裂が走る。




黒い霧が大きく揺らぐ。


暴走する。


虚無の使徒は咄嗟に人外の力を維持しようとする。


ズズズズズ……


黒い霧がさらに膨れ上がる。


地下神殿全体が震えた。


だが。


もう遅い。


広がったヒビは、


人外の力そのものを支え切れなくなっていた。


アイラは静かに三本目の矢を番える。


目尻から流れた血が頬を伝い、


弦へ一滴だけ落ちる。


それでも。


視線は一度も揺れなかった。


「終わり。」





















弦が静かに鳴った。

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