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バル  作者: 隣の猫
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243/406

フィア



轟音が地下神殿へ響いた。


壁へ叩き付けられた虚無の使徒は、


黒い霧となって静かに崩れていく。


アイラは、その瞬間だけ視線を向けた。


(……決めた。)


レオンらしい。


それだけを胸へ刻み、


すぐに前を向く。


今は見届ける時ではない。


自分にも、まだ倒すべき敵がいる。




静かに弓を構える。


視線の先には、


速さを武器とする虚無の使徒。


黒い外套が揺れる。


足音はない。


気配も薄い。


それでも。


アイラの目は確かに、その姿を捉えていた。


「……。」


互いに動かない。


いや。


動く瞬間を待っている。




アイラの頭の中では、


先ほどのレオンの戦いが何度も繰り返されていた。


大剣で押し留める。


逆手の小剣。


そして――


仮面の亀裂から溢れた黒い霧。


(あの時。)


(人外の力を使った。)


(でも。)


(止まった。)


違う。


止まったんじゃない。


ほんの一瞬だけ、


力が乱れた。


アイラは静かに目を細める。


(……ヒビ。)




虚無の使徒がゆっくりと構える。


風が変わる。


その動きを見ながら、


アイラは仮面だけを見続けていた。


呼吸。


重心。


足運び。


そして。


仮面の亀裂。


(そういうこと。)


一つの答えへ辿り着く。


人外の力を使う瞬間。


仮面のヒビが広がる。


黒い霧は、そこから溢れ出していた。


ほんの一瞬だけ。


本当に紙一重だけ。


そこへ隙が生まれる。


レオンは、


その一瞬を掴み取った。




アイラは静かに矢を番える。


まだ放たない。


今は違う。


狙うべきなのは敵ではない。


人外の力を使う、その瞬間。


地下神殿へ再び静寂が訪れる。


互いに動かない。


先に動いた方が負ける。


そんな張り詰めた空気の中、


アイラは静かに呼吸を整えた。


その瞳は、


獲物が動き出す瞬間だけを待つ、
























鷹のように鋭く研ぎ澄まされていた。

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