カルティアル
「捕まえた。」
レオンが静かに笑う。
ガギギギギ……
大剣はなお押し込み続ける。
虚無の使徒は両手の短剣で必死に受け止めていた。
床は深く陥没し、
砕けた石片が周囲へ飛び散る。
逃げられない。
押し返せない。
虚無の使徒は初めて、力を逃がそうと身体を捻った。
「待ってたぜ。」
⸻
レオンは大剣を押し込んだまま、
身体だけを右へ跳ぶ。
「!」
虚無の使徒の目が見開く。
そのまま。
レオンは空中で一回転した。
腰へ差していた小剣を抜く。
逆手。
誰も使わない握り方。
キィィィン!!
大剣と短剣が擦れ合い、無数の火花が散る。
その一瞬。
火花に照らされた小剣は、
まるで獲物へ襲い掛かる
鷹の爪そのものだった。
「終わりだぁぁぁ!!」
逆手の小剣が一直線に振り下ろされる。
その瞬間――
仮面の亀裂から黒い霧が噴き出した。
ズズズズ……
人外の力。
黒い霧は生き物のように鷹の爪へ絡みつき、
そのまま砕き、レオンごと貫こうと牙を剥く。
「……!」
地下神殿の空気が震えた。
だが。
仮面の亀裂から溢れた黒い霧は、
途中で大きく揺らぐ。
力が、一瞬だけ鈍る。
ほんの紙一重。
その一瞬を、
レオンは逃さなかった。
ズドォォッ!!
小剣が黒い霧ごと胸を貫く。
黒い霧は悲鳴を上げるように霧散した。
仮面が砕ける。
「これは――」
「さっきのお返しだ!!」
ドゴォォン!!
渾身の蹴りが腹へ突き刺さる。
虚無の使徒の身体が一直線に吹き飛んだ。
何本もの石柱を砕き、
最後は壁へ激突する。
轟音が地下神殿へ響き渡る。
黒い霧は静かに崩れ落ち、
やがて虚無の使徒の身体は粒子となって消えていった。
静寂。
レオンは肩で息をする。
「はぁ……。」
「危ねぇ……。」
あと一瞬。
仮面に亀裂が入っていなければ、
あの黒い霧は小剣を砕き、
自分ごと貫いていただろう。
レオンは静かに小剣を見つめる。
「助かったぜ。」
腰へ戻し、
ゆっくりと大剣を担ぐ。
その視線はすでに、
リシアとアイラが戦う虚無の使徒へ向いていた。




