ヴェリオグ
「……っ。」
レオンはゆっくりと目を開けた。
腹へ走る鈍い痛みに顔をしかめながら、崩れた石壁へ手をつく。
「リシア!」
「アイラ!」
返事はない。
嫌な予感が胸をよぎる。
レオンはすぐに地下を見下ろした。
そこにいたのは――
リシア、一人だった。
三人の虚無の使徒を相手に、必死に剣を振るっている。
「くそっ!」
レオンは飛び出そうとする。
だが。
三人の虚無の使徒が同時に踏み込んだ。
黒い短剣が三方向からリシアへ迫る。
「リシアァァッ!!」
叫ぶ。
間に合わない。
そう思った、その瞬間だった。
白銀の光が、リシアの身体から静かに溢れ始める。
地下神殿を照らすほどの淡い輝き。
レオンは思わず息を呑んだ。
「……。」
光は一瞬だけ強く輝き、
静かに消えた。
キィィィン!!
次の瞬間。
リシアの両手には二振りの剣があった。
右手の細身の剣。
左手の氷の剣。
三人の虚無の使徒が一斉に斬り掛かる。
だが。
その全てが弾かれる。
右。
左。
後ろ。
舞うような足運び。
流れるような二刀。
誰一人として、その身体へ触れることさえできない。
三人の猛攻を、
リシアは一人で完全に捌いていた。
「……すげぇ。」
思わず声が漏れる。
見たことのない剣だった。
ゴンッ!!
突然、尻へ衝撃が走る。
「いてっ!」
振り返る。
瓦礫の向こうで、アイラがゆっくりと身体を起こしていた。
まだ呼吸は荒い。
それでも弓は離していない。
アイラは地下を見下ろき、二刀を振るうリシアを一瞬だけ見つめる。
「……。」
何が起きたのかは分からない。
だが。
今は考えている場合ではなかった。
そのままレオンを見る。
「見惚れてる場合か!!」
鋭い一言。
レオンは我に返る。
「……わりぃ!」
そう言うと、そのまま駆け出した。
地下へ降りる道を探し、崩れた通路を走る。
その途中。
一枚の壁画が目へ入った。
大きく翼を広げた一羽の鷹。
鋭い眼差しで獲物を見下ろしている。
「……。」
壁画の足元。
砕けた石台の上へ、一振りの小剣が落ちていた。
レオンはそれを拾い上げる。
何の変哲もない小剣。
「俺もやってみるか。」
小さく笑う。
腰へ差す。
そのまま再び地下へ向かって駆け出した。
地下ではなお、
白銀の二刀が三人の虚無の使徒を相手に舞い続けていた。




