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バル  作者: 隣の猫
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227/410

アリス



キィィィン!!


大剣と短剣が激しくぶつかる。


火花が散る。


レオンは歯を食いしばった。


「重っ……!」


目の前の虚無の使徒は細身の身体だった。


それなのに。


右手一本で大剣を受け止めている。


「化け物が……!」


レオンは腰を落とし、全身で押し込む。


筋肉が軋む。


石床が鳴る。


だが。


相手は微動だにしない。


その瞬間。


左手の短剣が閃く。


「っ!」


ギィィン!!


咄嗟に身体を捻る。


肩の鎧が裂け、血が滲む。


「まだだ!」


踏み込もうとする。


しかし虚無の使徒は追ってこない。


静かに距離を取る。


削る。


離れる。


まるで獲物を弱らせる猛獣だった。




その頃。


アイラは弓を静かに構えていた。


(動いて。)


放つ。


ヒュンッ!!


矢は虚無の使徒ではなく、その右側を抜ける。


狙いは最初から敵ではない。


逃げ道。


虚無の使徒は半歩だけ左へ流れる。


「レオン!」


その一声。


レオンが踏み込む。


大剣が横薙ぎに走る。


だが。


虚無の使徒はさらに半歩だけ下がる。


紙一重。


届かない。


「もう一本!」


アイラは続けて放つ。


今度は左。


逃げ道を塞ぐ。


虚無の使徒は矢を見る。


いや。


矢ではない。


アイラを見る。


「……。」


そのまま最短距離だけを選び、


誘導そのものを外してみせた。


「そんな……。」


アイラは目を見開く。


今までなら。


相手は必ず動かされていた。


だが目の前の敵は違う。


誘導されない。


自分が描いた道へ、一度も乗ってこない。


「読まれてる……。」


放つ。


誘導する。


避けられる。


放つ。


誘導する。


また外される。


初めてだった。


自分の弓が。


意味を失ったのは。




その頃。


リシアは三人目の虚無の使徒と向き合っていた。


その虚無の使徒は、


誰とも戦っていないように見えた。


しかし。


次の瞬間にはレオンの背後。


「レオン!」


リシアが飛び込む。


細身の剣が黒い刃を受け止める。


キィィン!!


重い。


腕が痺れる。


押し返せない。


「まだ!」


歯を食いしばる。


その瞬間。


虚無の使徒はもう消えていた。


今度はアイラ。


また消える。


次はレオン。


一人を狙わない。


誰かが隙を見せれば、


必ずそこへ現れる。


「くっ……!」


リシアは走る。


受ける。


走る。


止める。


走る。


息が上がる。


それでも足は止まらない。


「皆さんには……。」


「触れさせません!」




その戦いを見つめながら。


中央の虚無の使徒が、


ゆっくりと仮面へ触れた。


仮面の亀裂。


そこから黒い霧がわずかに漏れ出す。


ズズ……


床へ影だけが細く伸びる。


生き物のように蠢く黒い影。


しかし。


それ以上は広がらない。


霧はすぐに消えた。


虚無の使徒は静かに手を下ろす。


「……まだ。」


誰にも聞こえないほど小さな声。


そのまま何事もなかったように、






















再び短剣を構えた。

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