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バル  作者: 隣の猫
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カルセリオ



神殿が大きく軋む。


天井を支えていた巨大な梁が悲鳴を上げ、無数の石片が降り注いだ。


崩壊は、もう誰にも止められない。


だが。


二人は、その音すら聞いていなかった。




虚無の使徒が静かに剣を構える。


黒い霧が剣身へ集まり、今までで最も濃い闇を纏う。


ベスも剣を構え直す。


右手の剣。


左腕のフェンリル。


肩まで覆う白銀の装甲には幾筋もの傷が走り、蒼白い紋様はなお静かに輝いていた。


荒い呼吸。


重い身体。


それでも、一歩も退かない。




同時だった。


床を蹴る音すら重なる。


一直線。


互いに最短距離。


逃げない。


避けない。


正面からぶつかる。


キィィィィィン!!


衝突。


火花。


衝撃。


神殿全体が激しく揺れた。


足元の石畳が砕け、二人の身体が同時に宙へ浮く。




虚無の使徒が先に動く。


黒い剣が一直線にベスの喉を狙う。


速い。


だが。


ベスはその軌道を知っていた。


フェンリルが黒い刃へ触れる。


受けない。


押さえない。


ほんの僅かに流す。


黒い剣は紙一重で軌道を外れた。


その一瞬。


虚無の使徒の胸が開く。




ベスは踏み込まない。


身体を捻る。


右腕。


左腕。


全身が一つの流れとなる。


フェンリルが黒い剣を完全に弾き上げる。


その勢いを、一切逃がさない。


右手の剣が、


迷いなく走った。




一閃。


音はなかった。


黒い外套が静かに裂ける。


仮面へ一本の線が走る。


時間が止まったようだった。


虚無の使徒は、その場から一歩も動かない。




やがて。


パキッ――。


乾いた音が響く。


仮面の亀裂がゆっくりと広がった。


一筋。


二筋。


三筋。


次の瞬間。


仮面は静かに砕け散る。


黒い霧が身体中から噴き上がった。


その姿はゆっくりと崩れ始める。


なおも虚無の使徒は剣を離さない。


最後まで戦士として立ち続けようとする。


しかし。


身体はもう霧へ還り始めていた。




黒い霧が風に溶ける。


剣が崩れる。


外套が消える。


最後に残ったのは、


静かな空間だけだった。


ベスは剣を下ろす。


肩で息をする。


静かに目を閉じ、小さく息を吐いた。


勝った。


だが。


歓喜はない。


ただ、


生き残った。


それだけだった。




その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……。


神殿全体が、これまでで最大の揺れを見せる。


天井が大きく沈む。


床が悲鳴を上げる。


巨大な亀裂が、ベスの足元へ向かって一直線に走り始めた。


神殿は、






















 

限界を迎えていた。

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