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バル  作者: 隣の猫
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220/409

ノクシアル



次の一撃。


それが勝敗を分ける。


互いに理解していた。


黒い霧が揺れる。


銀色の魔力が静かに脈打つ。


神殿はなお軋み続けていた。




虚無の使徒が動く。


今までで最も速い。


黒い霧が一直線に伸び、神殿の景色ごと飲み込んだ。


剣が見えない。


姿も見えない。


見えるのは、


迫り来る死だけ。


普通なら。


そこで終わっていた。




ベスは動かない。


視線も動かさない。


肩。


腰。


重心。


霧の中に残る、ほんの僅かな違和感。


それだけを見ていた。


「――。」


右足が半歩だけ動く。


その瞬間。


黒い剣が鼻先を掠めた。


あと半歩遅ければ終わっていた。




避けながら。


フェンリルが動く。


巨大な狼の前脚が黒い剣へ絡み付くように押し流す。


力ではない。


流れ。


ガルドが何度も叩き込んだ感覚。


受けるな。


止めるな。


流せ。


黒い刃が僅かに逸れる。


その隙。


右手の剣が閃く。


キィィィィィン!!


火花が散る。


虚無の使徒は後ろへ跳ぶ。


だが。


今度はベスが追った。




一歩。


二歩。


三歩。


速い。


神殿の床を蹴るたび、石畳が砕ける。


フェンリルが先に届く。


黒い剣を弾く。


その流れへ剣が走る。


虚無の使徒も受け流す。


互いに一歩も譲らない。




轟音。


天井の一部が崩壊した。


巨大な石塊が二人の間へ落下する。


しかし。


ベスは止まらない。


落ちてきた石塊を蹴る。


身体がさらに加速する。


石塊はそのまま虚無の使徒へ飛ぶ。


黒い剣が一刀で砕く。


その瞬間だけ、


視界が白く染まった。




ベスはその一瞬を待っていた。


砂煙の中。


姿は見えない。


だが。


そこにいる。


フェンリルが黒い剣を捉える。


ガギィィィン!!


衝撃。


虚無の使徒の姿勢が初めて大きく崩れた。


右肩が下がる。


重心が流れる。


ほんの一瞬。


それだけ。


だが。


ベスには十分だった。




右手の剣が走る。


黒い外套を深く裂く。


今までとは違う。


確かな手応え。


虚無の使徒の身体が初めて大きく後退した。


ベスは追わない。


静かに剣を構える。


肩で息をする。


汗が頬を伝う。


左腕の白銀の装甲には無数の傷が刻まれていた。


それでも。


その瞳だけは変わらない。


もう。


追い付いた。


いや――。


追い越そうとしていた。


その瞬間。

























神殿全体が、これまでで最も大きく揺れた。

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