アルステラ
鈍い音が神殿中へ響く。
大きく傾いた石柱が、限界を迎えようとしていた。
石と石が擦れ合う音が鳴り止まない。
天井から落ちる瓦礫はさらに増え、
舞い上がる砂煙が視界を白く染めていく。
それでも。
二人の剣は止まらなかった。
ベスが踏み込む。
速い。
しかし虚無の使徒も同時に動く。
二つの影が交差する。
キィィィィィン!!
甲高い音が神殿へ反響した。
互いの剣は止まらない。
一撃。
二撃。
三撃。
そのたびに火花が弾け、
砕けた石片が宙へ舞う。
人の目では追えない。
残るのは、
幾筋もの銀と黒の軌跡だけだった。
虚無の使徒が剣を振り抜く。
黒い斬撃が壁を掠めた。
轟音。
石壁が大きく抉れ、
巨大な瓦礫となって崩れ落ちる。
ベスはその瓦礫へ飛び乗った。
着地と同時に蹴る。
砕けた石塊が弾丸のように飛ぶ。
虚無の使徒はそれを斬り裂く。
その一瞬だけ視界が遮られた。
ベスは見逃さない。
瓦礫の影から一気に間合いを詰めた。
フェンリルが唸る。
巨大な狼の前脚が黒い剣へ叩き付けられる。
轟ッ!!
衝撃だけで床が沈む。
二人の足元から大きな亀裂が走り、
石畳が音を立てて崩れ落ちた。
足場が消える。
それでも。
二人は空中で剣を交える。
キィィィィィン!!
銀。
黒。
火花。
衝撃。
落下する瓦礫を足場に、
互いが何度も跳ぶ。
剣が触れるたび、
神殿そのものが軋みを上げて震えた。
ベスの頬を黒い刃が掠める。
浅い傷。
血が流れる。
構わない。
そのまま踏み込む。
右手の剣。
左腕のフェンリル。
二つは完全に同じ軌道を描いていた。
まるで一振りの剣のように。
虚無の使徒も変わる。
黒い霧が今まで以上に濃くなる。
姿が揺らぐ。
一体。
二体。
三体。
残像が神殿中へ広がった。
どれが本物か。
普通なら見分けられない。
だが。
ベスは剣を見ていなかった。
呼吸。
重心。
床へ伝わる僅かな振動。
本物は一つだけ。
迷わず踏み込む。
フェンリルが残像を貫く。
霧が散る。
同時に右手の剣が本物の黒い剣を捉えた。
キィィィィィン!!
今までで最も重い衝撃が神殿を揺るがす。
その瞬間。
支えを失った一本の石柱が、
轟音とともに崩れ落ちた。
神殿は、
確実に終わりへ近付いていた。




