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バル  作者: 隣の猫
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217/404

カディル



神殿は悲鳴を上げ続けていた。


激突のたびに床が大きく震える。


壁を支えていた石柱は少しずつ傾き、天井には無数の亀裂が走っていた。


崩壊は確実に近付いている。


だが。


二人には関係なかった。




ベスが踏み込む。


床を砕くほどの踏み込み。


石畳が弾け飛ぶ。


虚無の使徒は迎え撃つ。


黒い剣が真っ直ぐ振り下ろされた。


キィィィン!!


火花が弾ける。


ベスは受け止めない。


剣を滑らせる。


黒い刃を流す。


同時にフェンリルが下から跳ね上がる。


轟ッ!!


黒い剣が僅かに浮く。


その一瞬。


右手の剣が閃いた。




浅い。


それでも。


今度は確かに虚無の使徒の肩口を斬り裂いた。


黒い外套が裂ける。


霧が舞う。


虚無の使徒はすぐに距離を取った。


だが。


ベスは追わない。


静かに構え直す。




息は荒い。


額から汗が流れる。


左肩へ広がる白銀の装甲も、激しい衝撃を受け続け、小さな傷が刻まれ始めていた。


それでも。


左腕は自然と動く。


考えない。


身体が先に動く。


ガルドとの最後の夜。


何百回も繰り返した木剣。


あの時間が、今の一歩一歩になっていた。




虚無の使徒が床を蹴る。


黒い霧が一直線に迫る。


速い。


今までより速い。


ベスも動く。


真正面。


逃げない。


剣と剣がぶつかる。


フェンリルが押し返す。


互いの力が正面からぶつかり合った。


衝撃だけで床が陥没する。


二人の足元から放射状に亀裂が広がった。




その瞬間。


虚無の使徒の姿が消える。


霧。


右。


違う。


左。


違う。


上。


そこだ。


ベスは見上げない。


フェンリルだけが空へ突き上がる。


ガギィィィン!!


黒い剣を受け止めた。


ベスはその反動を利用する。


身体を一回転。


右手の剣が虚無の使徒の脇腹を掠める。


また浅い。


だが。


確実に届いている。




虚無の使徒は静かに着地した。


その黒い外套には、今までなかった裂け目が増えている。


ベスも静かに呼吸を整えた。


肩が上下する。


腕は重い。


それでも。


視線だけは鋭さを失わない。




互いに無言。


互いに一歩も譲らない。


崩れ続ける神殿の中心で、


二人だけが異様な静けさを纏っていた。


そして次の瞬間。


再び二つの影が正面から激突する。


その衝撃で、























神殿を支える一本の大柱が、鈍い音を立てて大きく傾いた。

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